MS患者さんのQOLについて研究を続けておられる北海道医療センターの新野先生より、原稿をお寄せいただきました。
多発性硬化症(MS)という病気は、再発のリスクや再発・進行による障害の出現など、患者さんにとって悩ましいことがたくさんあります。それらの悩みやつらさはどうしても、日常の生活に影響を及ぼしがちになります。また残念ながら、現在の医療では、全ての症状を良くする術はなく、再発や進行などで症状が残ってしまった場合、もはやそれはどうしようもできないことがあります。また、障害の中には、軽微であっても患者さんにとっては非常につらいものもあるでしょう。
症状・障害や悩みが患者さんの日々の生活に影響を与えることは容易に想像できるのですが、そのほかに何か日々の生活の質(quality of life:QOL)に影響を与えているものはないだろうか? 少しでもQOLを改善する方法はないのだろうか? もしあれば、それを患者さんに働きかける必要があるのではないか? ということを調べてみることになり、MSにおけるQOL研究はスタートしました。
この研究は、札幌市立大学の菊地(ひろみ)、最近、北海道大学から神戸大学に異動した、実験や調査データの解析が専門の三船、当院の新野、菊地(誠志)が中心となり、免疫性神経疾患班会議のご協力をいただききながら進められました。
その結果、確かに身体の障害度はQOLを規定する重要な因子であることが示されました。ただそのほかに、仕事をすること(継続すること)、収入が安定すること、疾患に関する情報を得ることなども、QOLを維持するためには重要な要素であることがわかりました1)。
その後、これらのデータを使って、QOLを良くするために何か介入できることはないのかという解析を加えました。その結果、身体の障害度はQOLを下げますが、病気に対する“適切な”情報を充分得ることや、医療者(看護師や医師)と良好な関係を保つことでQOLを改善できる、そして、障害度で低下したQOLを補う役割も果たすということがわかりました。
ここで注意しなければならないことは、情報もただあれば良いということではないようで、“適切な” 情報が必要です。昨今はインターネットの普及で、情報が容易に入るようになりました。ただ、インターネットの情報は全てが正しいものではなく、中には間違った情報もあふれているということに注意が必要です。そのためには、主治医をはじめとした医療者と良好な関係を築くことで情報を共有し、間違った情報には適切に訂正を入れてもらえるような環境が大切だと思います。
ひいてはこの良好な関係そのものもQOLの向上に寄与します。このことは医療者である我々も常に意識しながら診療しなければならないことだと考えています。尚、これらの結果は、去年のアムステルダムで開かれたヨーロッパと北米のMSの合同学会で発表しました。
文:新野正明 / 北海道医療センター臨床研究部
1)Kikuchi H, Mifune N, Niino M, Ohbu S, Kira J, Kohriyama T, Ota K, Tanaka M, Ochi H, Nakane S, Maezawa M, Kikuchi S. Impact and characteristics of quality of life in Japanese patients with multiple sclerosis. Qual Life Res. 2011; 20(1): 119-131.