近藤誉之のブログ|MSキャビン(多発性硬化症 視神経脊髄炎)

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多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)と視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica; NMO)の情報を提供しています。
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近藤誉之のブログ

MSはご存知のように中枢神経の複数の箇所に炎症がおこることにより再発と寛解を繰り返す疾患です。最終的には他の疾患を除外してMSらしさを考慮して診断されるのですが、実はMSらしさというのも極めて曖昧なものです。

 

例えば、視神経脊髄炎(NMO)は抗アクアポリン4(AQP4)抗体が疾患バイオマーカーとして発見されるまでは日本ではMSと扱われてきました。現在でもMSとよく似た臨床経過をたどる疾患として認識されていますが、抗AQP4抗体の有無を問わなければ、NMOはMSらしいと言えるのでしょうか。

 

NMOでは1回の視神経炎で失明にいたることもありますが、MSでは1回の視神経炎で失明にいたることはまずないとされています。MSの視神経炎は左右同時におこることもまずありませんが、NMOでは両側に同時に視神経炎が起こることがあります。視神経の中でも障害される場所が異なるので、NMOで認める耳側半盲(耳側すなわち外側の視野が見えないこと)もMSではまずおきません。

 

脊髄炎の程度もNMOではより強いのが特徴で、1回の脊髄炎で車椅子になってしまうことがありえますが、MSではかなりの程度回復するのが普通です。NMOでおこる脳病変もMSとしては典型的でない方が多いと思います。髄液一般所見(細胞数,蛋白)もMSでは2/3が正常ですし、異常があっても正常より軽度の増加にとどまりますが、NMOでは著明な細胞数の増多や蛋白の増加がおこることがあります。

 

MSに限らないのですが、ある疾患を診断する時に、その疾患を示唆しない臨床症状、臨床経過、検査所見を「red flag(レッドフラッグ)」ということがあります。

 

NMOで起こりうることとして、上に挙げた1回のアタックで強い後遺症を残す視神経炎も、左右同時におこる視神経炎も、脊髄炎も、MSとしてはred flagということになりますし、髄液細胞数、蛋白の著しい増多もred flagです。3椎体以上の長い脊髄病変もred flagです。MSらしい病変が脳にないこともMSらしくない病変(この定義も難しい)があるのもred flagです。

 

ただし、現在の診断基準ではred flagが単独であったとしても診断を否定するものではありません。MSよりも臨床経過を説明しやすい他の疾患が同定できなければ原則としてMSと診断することは許容されます。英語では簡単に”no better explanation”という言葉が使用されるにすぎません。実際に、日本の臨床の場ではNMOなど他の疾患を示す検査所見が得られなければMSと診断されていることが多いのです。

 

次に、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)とMSについても考えてみましょう。ADEMは複数の病変が感染やワクチン接種後におこることの多い、脳に脱髄炎症が多発する単相性疾患(1回で終わる)です。比較的大きな多発性病変によって意識障害や脳高次機能障害、時にけいれん発作を起こす疾患です。

 

MSでは意識障害やけいれんで初発することは極めて稀とされています(red flag)。ですが、ADEMのようなエピソードを何回も繰り返す患者さんをどう考えたらいいでしょう。

 

一部には抗AQP4抗体が見つかったりしてNMO関連疾患であったりする訳ですが、多くの場合にははっきりと特定の疾患を示す検査所見は見つかりません。小児の場合は多相性ADEMという病態が定義されていますが、成人ではMSと診断されていることが少なくありません。小児の場合でも2回目のエピソードにおいて意識障害やけいれん、行動異常を伴わなければMSと診断する方が良いとされています。

 

また意識障害や行動異常を繰り返す場合でも、慢性的に長期にわたり再発を繰り返す場合はMSの診断をしてもかまわない旨も書かれていたりします。

 

つまり、Red flagがあった場合の診断は各施設、各医師によって様々です。非典型MSという言い方がされることもありますし、分類不能型脱髄疾患とすることもあります。東北大学のHPの中の「多発性硬化症と視神経脊髄炎の診断に関する基本的考え方」では「多発性硬化症と診断される症例の中には、典型例とともに非典型例も含まれていることを認識しておく必要があります」という記述があります。

 

Red flagのあるMSあるいは非典型MSの治療はどうしたら良いでしょうか。私もですが一部のMS専門家は、ステロイドや通常の免疫抑制薬を使用していると思います。それは、Red flagのあるMSと非典型MSで、MS-DMD(MSの再発予防薬)によって悪化する患者さんを多く経験した結果であり、たいていの場合ステロイドや免疫抑制剤で再発を防止できていることを実感しているからです。

 

ただしRed flagのあるMSに関して、MS-DMD(MSの再発予防薬)を使用しない方がいいと明確に書かれた論文はほとんどありません。エビデンスはないが、MS-DMDの使用を考慮してもよいと書かれている論文も少なくありません。このあたりは、答えが教科書や論文に書かれていない領域です。

 

個人的に面白いなと思ったのは、現在のMcDonaldの診断基準の前に最も汎用されていたPoserの診断基準を作ったPoser先生5、ADEM様エピソードを繰り返す患者さんをMSと診断すべきではないと怒っていますし、ステロイドの使用に関しても触れています。

 

私自身は現在、非典型MSという言葉をできるだけ使用しないようにしています。このMSは典型的でないというのはかなり感覚的で、おそらく専門家同士でも必ずしも一致しないでしょう。だから今まで論文化できず、エビデンスにならなかったと思うからです。Red flagの定義はいろいろな立場から様々なものがありますが、少なくとも定義づけることができます。

 

現在のred flagの概念はあくまで診断のためのもので、しかも100%診断を縛るものではありません。今の状況ではred flagがありながら単純にMSと診断され、MS-DMDを使用されている患者さんが少なからずいます。

 

MS専門の看板をあげていると、そういった患者さんが治療によって悪化して紹介されてくるケースを経験します。あるいは、治療効果のない状況で過ごしている患者さんもいます。個人的には、red flagのある患者さんの多くにはMS-DMD(特にインターフェロンβ製剤)はリスクがあると考えています。インターフェロンβ製剤はMSと病態の異なる自己免疫を悪化させる(例NMO)があるからです。

 

京都多発性硬化症ラボでは、自分たちで定義づけしたred flagをもとに薬剤への治療反応性を解析しはじめました。red flagを診断のために使うだけでなく、治療選択のために使用するということが必要なのだという考え方を広めたいからです。

2016.12.31

フィンゴリモド(ジレニア®/イムセラ®)服用中のリンパ球減少についてご質問がありましたので、解説します。

 

末梢血リンパ球数が問題になる最も大きな理由は、感染症を発症するリスクが高く、また重篤化しやすいからだと思います。

 

一般的にはリンパ球にして800以下になると感染リスクが上がるとされていると思います。ジレニア®/イムセラ®の治験でも白血球数3500以下、リンパ球数800以下の方は感染しやすい可能性があるとしてエントリーできませんでしたし、帯状疱疹のリスクなどは若干上昇すると思われます。

 

しかし実際に問題が起きやすいのは、リンパ球数が500以下になった時だと思います。ニューモシスティス肺炎もリンパ球数が500以下になった時に注意する必要があり、予防的に抗菌剤を使用するのが通常です。


進行性多巣性白質脳症(PML: JCウイルスによる重篤な脳症)のリスクは独立して論じる方がいいかもしれませんが、2017年春に発売されると思われるテクフィデラ®でPMLのリスクを考慮しなければいけないのは、リンパ球数が500以下の状態が長く続く場合と推察されています。

 

もっとも、通常の薬剤でリンパ球数500であってもPMLのリスクが上昇するとは言えません。リンパ球数減少の原因になっている薬剤や原因、そして病原体によっても感染症リスクは異なり、複雑です。

 

AIDSにおけるリンパ球と感染症などの発症リスクに関しては「HIVとそのはたらき(HIV/AIDS先端医療開発センター)」に示されています。示されているのはリンパ球数のデータそのものではなく、リンパ球の中で60-70%を占めるとされるCD4T細胞の数と感染症や悪性リンパ腫との相関です。

 

HIVではリンパ球数の中でCD4T細胞の割合も低下しますし、前述のように薬剤によるリンパ球数減少とHIV感染と同列に扱うことはできません。しかし、免疫不全になった時にかかりやすい感染症の順番は概ね一致しています。

 

また実際の感染リスクは、好中球数(白血球のリンパ球でない主要な細胞)や抗体の量などにも影響されます。通常は薬剤によって好中球が1000以下の場合や1000以下になることが予想される状況では好中球を増加させる薬剤を用いたり、治療選択の変更を検討します。

 

ジレニア®/イムセラ®以外の薬剤を使用している場合以外、リンパ球数の数だけで治療中止をすることは少ないと思います。疾患のコントロール不良が重篤な状況になりうる場合は感染症のリスクがあってもその治療を継続する場合もあります。もちろんγグロブリンなどを使用して免疫抑制剤やプレドニン®を減量することもありえます。リンパ球数減少自体が自己免疫が原因である場合は、あえて免疫抑制剤を使用する場合もあります。

 

自己免疫疾患におけるリンパ球数の減少にどう対応するのかには明確な答えはなく、疾患をコントロールできる範囲で感染症に関する予防投薬も行いながらリスクをできるだけ軽減するということしかありません。感染症が自己免疫疾患より、より重篤である場合は、それに応じた治療選択になるのだと思います。

 

他の薬剤とは異なり、ジレニア®/イムセラ®はリンパ球数の数と使用に関して基準が設けられています。適正使用ガイドでは、ジレニア®/イムセラ®ではリンパ球数<200を切った場合はだいたい2週間後にリンパ球数を再測定し、再び200を切れば一度中止し、リンパ球数が600以上になるのを待って再開することが推奨されています。

 

リンパ球数200の状態は感染リスクが非常に高い状態と考えられていますが、ジレニア®/イムセラ®では通常の状態に比べて大きくリンパ球数が減っても感染症頻度はそれほど増大しないとされています。それは、ジレニア®/イムセラ®の服用によって減りやすいリンパ球と減りにくいリンパ球があるからです。

 

ジレニア®/イムセラ®はリンパ球がリンパ組織から血液に移動できなくする薬です。ですが、そもそもリンパ球にはリンパ組織に戻っていくリンパ球とリンパ組織に戻らず体内を循環しているリンパ球があります。リンパ組織に元々戻らないリンパ球が体内のパトロールに重要と思われますが、このリンパ球はジレニア®/イムセラ®に大きな影響を受けないと考えているからです。とはいえ、帯状疱疹にはやはりかかりやくなります。

 

ステロイドも含めて一般的な免疫抑制剤は、パトロールしているリンパ組織に戻らないリンパ球数も減らします。ですから、ジレニア®/イムセラ®とステロイドや免疫抑制剤は併用してはいけません。再発期の急性期治療としてのステロイドパルスは禁忌とはされていませんし、必要な場合はあると思います。しかし、今までの診療に比べて十分な慎重さが必要です。

 

ジレニア®/イムセラ®使用中に感染症で亡くなられた患者さんの多くがステロイドパルスを頻回にされていたことは留意すべきです。また、リンパ組織からのリンパ球の動員が感染している場に妨げられているので、感染拡大につながりやすいという側面があります。

 

ジレニア®/イムセラ®の使用においてリンパ球数200という基準が設けられたのは大きな根拠があってのことではありません。だいたいこれぐらいなら大丈夫かなという程度の根拠です。製薬会社は発売前の臨床試験の結果などからリンパ球数が200以下になった患者さんとそうでない患者さんの間に感染症のなりやすさが異ならないというデータを医師の研究会でよく述べています。ある程度の根拠だとは思います。

 

けれども、感染リスクは長期使用によって明らかにされるものもあり、また臨床試験においてリンパ球数が200以下がどの程度続いていたのかなど詳細は不明です。とはいえ、今のところ、リンパ球数を200より多く保たなければいけないという根拠は希薄です。

 

製薬会社依頼の講演では言ってはいけないこととされていますが(添付文書にない、きちんとしたデータがないというのが理由)、リンパ球数200をきるあるいは200に近くなるとジレニア®/イムセラ®を隔日投与にする専門家は相当数います。私の場合もリンパ球数をみながら薬剤服用の頻度を調節した結果、週に1回投与になったものの再発抑制が十分にできている方もいます。ただし、毎日服用に比較して有効性が減少する可能性は否定できないとの意見はありえます。

 

ジレニア®/イムセラ®使用に関して、私自身はリンパ球数200を切らないように薬剤服用頻度を調整する、他の免疫抑制剤やステロイドと併用しない、急性期治療に関してはステロイドパルスを最小限に使用するということにしています。

2016.12.28

京都多発性硬化症ラボのブログでもお伝えしたのですが、9月30日をもって京大病院から関西医科大学総合医療センター(京阪沿線滝井駅徒歩3分)に異動することになりました。

 

関西医科大学総合医療センターは関西医科大学附属病院で神経内科の診療を行なっておりました。しかし、附属病院が枚方に移転し、神経内科も2013年に枚方にその機能を移しましたが、再び神経難病を重点とした診療科として再開をすることになりました。

 

パーキンソン病、脊髄小脳変性症や筋萎縮性側索硬化症などすべての神経難病患者さんの地域の拠り所となる診療を目指したいと思います。

 

多発性硬化症(MS)や視神経脊髄炎(NMO)などの神経免疫病は、疾患概念の変遷や新規治療薬の開発がめざましく、より専門性が必要な分野です。私たちの強みを生かして、周辺の患者さんだけでなく、遠方の患者さんやMS専門でない神経内科の先生にとっても頼りになる存在になりたいと思っています。

 

というのは、MSやNMOなどの中枢神経脱髄疾患は、診断基準だけで診断をして治療方針を決めたり、NMOとMSの区別をするだけでは治療が奏功しなかったり、治療による悪化の可能性があります。診断の時、治療方針を決定する時、治療を見直す時などにお役にたてればと思います。

 

遠方の方、あるいは遠方でなくても時間がとれる方は短期間の入院をして診断、疾患評価、治療方針の決定の時間にしていただければと思っています。さらに、入院を疾患理解の時間にしていただければとも思います。入院中はできるだけ疾患のお話をさせていただきます。当院に通院しにくい患者さんにも地元の先生と一緒に安心した医療を患者さんに提供できればと思います。

 

京大から異動するにあたり、京都に患者さんを残していくことも心配でしたが、多くの患者さんを康生会武田病院で継続して診療させていただくことになりました。医師の異動で患者さんにはご迷惑をおかけして申し訳ないことです。

 

京都では民医連の田中先生がMSの専門家として有名です。京都府立医大の藤井先生も私たちと一緒に臨床や研究をしている優れた専門家です。京大には、まだ本格的に臨床の場に出ていませんが、神経免疫の臨床と研究をしている大学院生(端、岡田、濱谷)がいます。神経免疫の知識が豊富な力のある神経内科医です。

 

MSの専門加療を行なっている先生は他にもおられますが、私たちとは治療方針などに違いがある場合が多いようです。全体として考えても、京都の神経免疫の診療を行なっている医師はまだまだ少ないのが現状だと思います。

 

私自身は今後も京都の神経免疫診療にも貢献したいと思っています。武田病院では土曜日の診療を続けています。通常の初診患者さんは受け付けていませんが、神経免疫の患者さん、あるいはその可能性のある患者さんで希望のある方は武田病院も利用してください。

 

どうぞ、今後ともよろしくお願いいたします。

2016.10.4

この記事は少しめんどくさいかもしれないので、まずこの記事を通じて伝えたいことを書いてみます。

 

どの薬であっても、薬の効果だけではなくリスクを医師は伝える必要があります。父親主義的な患者さんに不安を生じさせないための配慮でも、リスクを伝えないのは今日的な価値観からは問題があります。

 

現在のMSの薬のどれであっても全ての患者さんに有効だということはありません。また全く有害事象のないものもありません。薬剤の正しい使用法を身につけていくためにも有害事象を医療者は共有する必要があります。そしてそれは患者さんの知る権利でもあります。

 

一般的にある薬Aとある事柄Bと関連があるというためには、Aを服用している人に起こったBの頻度と薬を服用していない人に起こった頻度を解析します。Aの服用時にBが起こった頻度とA非服用時の頻度の差が偶然によって起こりうるかどうかを数学的に計算し、偶然におこる確率が一定の確率より小さい時(例えば5%以下)、AとBは関連がある(統計的有意差)といえます。

 

通常、AとBが偶然におこる確率が5.1%以上あるという解析結果になると関連があるとはいえないことになります。この場合、もう少し大規模な解析にすれば相関が証明できることもあります。

 

さて、MRIで造影剤を使用する時の説明を思い出してください。30-100万人に1人死亡しているという説明を受けていると思います。このような頻度の少ない副作用は、統計的有意差を持って関連があると認定するのは困難です。造影剤を投与してからの時間関係、生物学的反応として矛盾をしていないことから強く疑い、同意書をとる必要まであるのです。めったにおこらないから患者さんに説明しないという価値観は今日的にはゆるされません。

 

新しく認可された薬では、起こった有害事象(薬物との因果関係を認定せずに薬物を投与された患者に生じた好ましくない、または意図しない徴候、症状)が報告された場合、それが深刻なものであれば製薬会社も添付文書に記載し、注意を喚起します。統計的有意差がないからといって相関関係を否定することもできないから当然のことです。

 

有害な事象が起こっても各医師の判断によっては報告されないことも多くあります。ある薬の使用時には、20年使用して起きていなかったはずの重篤な有害事象が実は複数例起こっていたことが20年経過して明らかになった薬もあります。

 

とはいえ、認可された薬は多くの厳しい臨床試験を経ています。現在認可されているMSの薬は、正しい使用法をすれば有害な反応(リスク)を起こすより患者さんにとって有益な反応(ベネフィット)を起こす可能性がはるかに高い薬ばかりです。

 

しかし、今日のMSの薬はどの薬も良い点と悪い点があります。有害な副作用(薬との因果関係のある事象)のない薬はありません。特に免疫を動かす薬であるMS再発予防の薬は感染リスクと発がんリスクを変える可能性があります。そういったリスクは長期間丁寧にフォローをする必要があります。今の時点でそういったリスクに関して一定の評価を与えることができるのはアボネックス、ベタフェロン、コパキソンだけです。

 

有害事情が起こった時に、薬との関与をすぐに否定するのは傲慢であると思います。起こっている重篤な有害事象を患者さんに伝えることもなく、患者さんから聴き取った有害事象を薬と関係のないと切り捨てることは今の医師の倫理観では認めがたいことだと思います。まして、統計的有意差はないからとの理由で臓器移植や死亡に至った状況を最初から関係ないと切り捨てて報告しないようなことは、将来私たちが正しい判断をする材料をみずから捨てることになります。

 

もちろん、造影剤による死亡例があってもほとんどの医療者は造影剤を使用する検査を患者さんに勧め、患者さんも受け入れます。今のMSの薬は正しく使用すれば、安全性の比較的高いものばかりであることは私もそう思います。

 

新しい薬で重篤な副作用を起こした症例では、今から振り返れば過剰なステロイドパルスの使用などがありました。残念ですが、そういった経験を経て、それを共有することによってだんだんと医療者も正しい使用法を認識しています。そして、判明している自分におこりうる重篤な有害事象に関しては患者さんの知る権利でもあります。

 

2016.3.7

おひさしぶりです。〆切の原稿、書類がたくさんあって間に合ってないのもたくさんあって、ここに記事を書くと〆切先にやれと言われそうな気がして更新が滞りがちでした。ごめんなさい。

 

ところでネット情報によりますと、MSに日光は悪いのですよ、という情報を散見します。この一部は陽に当たると体温が上昇して調子が悪くなるということを基礎にしているのかもしれません。

 

でも、日光にあたると免疫低下するとか免疫のバランスがおかしくなるとかは間違ってますから信じないでください。

 

日光にあたるほどMSは軽症化する、子供の頃の日光の照射低下が発症に関係すると言われています。北海道や緯度が高いほどMSが多いのも日照時間と関係すると言われています。

 

日光にあたるとビタミンDが増えます。ビタミンDは免疫修飾作用があるんです。だから、北欧はMSが非常に多いのですが、ビタミンDが含まれる鮭を食べるノルウェーは意外に少ないです。

 

でも中田理事長からは北海道で鮭食べてても多いのはなぜよと詰問されてしまいました。うーーん。

 

もちろん、日焼けしてヒリヒリして火傷になるような状況がいいかどうかは別問題かとは思っています。また陽にあたり身体が温まり、調子が悪くなることはありえるので患者さんによっては注意が必要です。でも、結局陽にあたる方がMSの進行が抑えられるというのも本当です。

 

ネットに書きながら言うのもブーメランですが、どんな偉い先生のサイトでも、どんな権威のある会社の書いたことでも、あれ、っと思うことがあるものです。

2015.12.17

京都多発性硬化症ラボのブログで、ベッド臥床している時間がほとんどになってしまったMS患者さんに関するコメントをいただきました。

 

早期治療の必要性はよく語られますが、早期治療の機会を逸した患者さん、早期に治療を導入しても症状が進行してしまった患者さんの治療についてはあまり聴いたことが、僕自身もありません。

 

早期治療の必要性を強調するために講演会でよく使用される報告の1つは「歩行障害が明らかになると杖歩行・車椅子になるまでの期間は一定であって、少なくとも古くからあるMS再発予防薬はその期間を変化させないようだ」というものです。MS再発予防薬の効果があるのは歩行障害が明らかになる前、それを過ぎたら効果が期待できない、だから早期治療が必要だという提言にもつながっています。

 

ところが、私も含めてこの報告に問題を感じている日本のMS専門家も多いようです。先日もある製薬会社の求めに応じた会議の中で、重症度が高くても治療により進行を抑制あるいは改善できる患者さんの存在を強調すべきだとの複数の先生の意見がありました。

 

私は、重症度が高い患者さんにもMS再発抑制薬を試みるべきであろうと思います。

 

それでも、完全に車椅子生活になってから(時々必要というレベルではなく)のインターフェロンβ製剤は、治療効果への期待という点でも注射薬である負担という点でも、さすがにしんどいと思います。

 

少し前であれば、抗がん剤としても使用されるエンドキサンパルス、ノバントロンなども考慮される選択でした。定期的ステロイドパルスは比較的簡便に外来でできますし、今でも行われています。

 

私自身はフィンゴリモドの脳萎縮への抑制効果があるという少数の報告を二次進行型への治療のよりどころとするいうことには疑問を感じますが、実際にそこをよりどころとしてフィンゴリモドを二次進行型に使用される医師も増えているようです。今後はタイサブリも選択される状況もありえると思います。

 

タイサブリの二次進行型MSへの経験は僕自身はありませんが、車椅子生活から歩けるようになった患者さんがいるとある高名な先生から聴いたことがあります。もちろん非常に例外的なことだとは思います。

 

フィンゴリモドも、二次進行型になったかなというころに使用すると確かによく効くことがあります。症状の進行は停止し、少し神経症状が良くなることもあります。ただフィンゴリモドは不思議な薬で、一部の二次進行型の患者さんでは全身衰弱が進んだり明らかに有害だと思える場合もあります。

 

定期ステロイドパルスは前2つの薬より効果の得られる確率は低いものの、フィンゴリモドで全身衰弱が進んだ患者さんにフィンゴリモドを中止し、定期パルスを導入したところ、症状の進行が止まった患者さんを経験しています。

 

エンドキサンパルスも多くの患者さんへの効果を経験していますが、発がん性などの点からずっとできる治療ではないので、今はほとんどしなくなりました。次世代の薬を期待して、最後の手段という形では現在もありえるかもしれません。

 

治療を試みることは大切ですが、治療効果を判定することも同等に重要です。残念ながら神経障害が高い(EDSSの高い)ほど、治療の効果の可能性が少ないのも事実です。薬を使用していても症状が進行するのであれば、その薬は止めた方がよいと思います。

 

もちろん、何か客観的に進行が抑制できる根拠があれば別ですが、「治療薬を使用しているほうが進行は遅いはずだ」というのはおそらく根拠のない希望です。

 

先ほどの「歩行障害の明らかな時点から車椅子までの進行は、薬物によっても変更できない」という報告は問題点があることは指摘しましたが、それでも多くの真実を含んでいます。

 

車椅子以上の障害がある場合は短期間、薬剤を試みて評価し、効果がなければ中止するというのが正しいやり方だと思います。最終的に試す薬がなくなる、あるいは試せる薬があっても有害事象の可能性が上回る場合は、MS再発予防薬を使用しないという選択は、何でも使用するというより妥当だと思います。

 

ただ、何もしないで進行していくのなら何でも試したいというのであれば、それは治療方針の決定に含むべき重要な要素だとは思います。

 

中止後、私ならビタミンD、高脂血漿改善剤、ケタスなどを使用するかもしれません。これらの薬剤はMSの再発予防への効果が確実ではないものの、その効果が示唆されたことがあり、かつ比較的安全だからです。

2015.7.9

京都多発性硬化症ラボで書いた記事です。 疼痛に苦しむ患者さんに少し役にたっていることを示唆するようなコメントをいただきましたのでこちらにも転記してみます。

6割ぐらいのMSの患者さんが疼痛やしびれを感じていると言われています。MSの患者さんが感じる疼痛やしびれは一般の患者さんの感じる疼痛やしびれよりもより強く、日常生活の障害となることが多いとの報告もあります。NMOの疼痛やしびれはさらに強いことが多いと多くの神経内科医師が感じています。

一方、疼痛やしびれを過不足なく評価することは医師にとって困難なものです。疼痛やしびれは主観的なものです。医療者は疼痛やしびれがどうして起こっているかわからない場合、患者さんへの共感を示せなくなることがあります。例えば、画像等で認識可能な病変部位と疼痛の関連が解剖学的に説明できない場合です。


理解できないことから生じる患者さんへの非共感によって十分な薬物治療がされないという状況が生じることがあります。また、患者さんの訴えに従って薬剤を加えていっても実際の症状は緩和されず、覚醒度の低下、精神症状、吐き気、めまい、便秘等の副作用がより問題になることもあります。

残念ながら、私も含めて疼痛やしびれに関して十分な教育を受けている神経内科医はそう多くありません。

MSやNMOでコントロール困難な疼痛に、両側下肢に生じる疼痛があります。その疼痛は時には体幹や上肢にも及ぶことがあります。 燃えるような、針で突き刺すような、あるいはしめつけられるようなしつこい痛みでしばしば日常生活を制限します。この疼痛は通常の鎮痛剤はほぼ無効です。夜間に増悪したり、運動や仕事によって強くなったりします。


また、疼痛の強さは温度や湿度によっても変動します。外気温とは無関係に下肢が暖かいとか冷たくてつらいと訴える人もいます。刺激によって刺激の程度に不釣り合いな強い痛みを訴える人もいます。こういった疼痛がNMOの方に特に多いのは、おそらく脊髄病変に関連した症状だからです。


脊髄病変が想定されても画像では確認できないこともあります。画像診断を優先する医師はこのような痛みを精神的なものとしてしまうこともあります。後で述べるように疼痛は精神科的アプローチも重要です。しかし、もともとの原因となる病気を軽視して精神科/心療内科にまかせてしまうのも正しいとは思えません。

神経内科領域でこういった疼痛にまず使用されることの多い薬剤は、抗うつ剤、抗てんかん薬です。とはいえ、こういった薬剤で十分な効果が得られることは例外的です。より強い向精神薬やオピオイド(癌疼痛の時に使用される麻薬)を使用することもあります。しかし、薬物療法を精一杯しても患者さんの疼痛、しびれは十分に改善しないことも少なくありません。


国立精神神経センターで、NMOの発症に関係のあるサイトカイン(IL-6)の働きをブロックすると、再発抑制だけでなく疼痛にも効果のあったということは、難治性疼痛が簡単に精神的なものとされることへの大きな警鐘でもあります。


しかし、矛盾するようですが、精神的な要素が疼痛に影響するのもまた事実です。疼痛は鬱状態でひどくなります。疼痛は睡眠の妨げにもなりますが、睡眠障害も疼痛を増悪させます。心配や疲労も同様です。否定的な考え方をしている時や過度の不安も疼痛の増悪因子として知られています。

欧米の疼痛コントロールの実務書には、患者さん自身も疼痛を含めた現在の状況を正しく認識し、受け入れることが重要であると記載されています。医療者の役目としては、患者さんがセルフマネージメント出来るように指導する必要性も記載されています。ヨガや心理療法の効能も記載されています。また患者さんや家族への社会的サポートがない状況での疼痛の緩和が難しいことも記載されています。


私自身は患者さんに、精神的社会的状況が疼痛に大きく関与することをお話しています。問題は、私自身が内心「痛くてたまらない人に痛みを受け入れては」なんて、こちらから誘導できるのだろうかと思ってしまうことです。私自身はその点で力不足です。苦しんでいる人に苦しみを受け入れるようにと言ったって役にたつのだろうかと思うこともあります。


それでも、疼痛やしびれを診察の度に訴えていた患者さんが、いつの間にか診察の時に訴えなくなることもあります。こちらから訊くと「痛みは変わらないかもしれないけど、こだわってても仕様がないし」などの返事が返ってきたりします。そういった患者さんは自然に自分で疼痛を受け入れるプロセスをたどったのだと思います。

2015.4.28

昨日、中田さんからブログしっかりしてくださいね、と言われました。新しい記事を書くのには少し忙しいので、以下は京都多発性硬化症ラボからの転載記事です。少し加筆しました。

 

多発性硬化症(MS)は自己免疫性疾患と考えられています。 免疫系は、病原体(ウイルスや細菌)などから身体を守るしくみです。免疫系は、病原体由来成分に反応し、自分の身体の成分には反応しないようなしくみになっています。ただ、そのしくみに不具合が生じて自分の身体の成分に反応して起きる疾患を自己免疫疾患といいます。不具合の内容ははそれぞれの自己免疫疾患で共通していることも異なっていることもあります。

 

医療者にとって、診断基準を参考にして診断をし、病名をつけ治療を開始するのは患者さんを診る時の普通のプロセスです。患者さんにとっても、自分を悩ませている病気が、こういう病気だと納得するために診断病名は役にたちます。 でも、MSの臨床はそれだけではうまくいかないと私たちは考えています。


MSは、脳や脊髄(中枢神経といいます)の複数の場所(空間的多発性)に何回も病変ができる(時間的多発性)ことが特徴です。空間的多発性や時間的多発性を呈する他の疾患を除外するとMSとしていいというのが診断基準です。言い換えれば、MSだと診断できる診断マーカーは存在しません。

 

現在の診断基準は理屈上複数の病態を許容することになります。また、医学の進歩によって特定の診断マーカーが見つかると、MSとされていた患者さんが異なった診断になることもありえます。例えば、視神経脊髄炎(NMO)はその診断マーカー(抗AQP4抗体)が見つかるまでMSとされてきました。MSと同じ診断のもとでMSと同じ治療をされ、かえって増悪する患者さんがいました。


NMOを除いてもまだMSには多様性があると考えています。MSかNMOかだけの二者択一の診断をして治療方針を決定するのは危険性を含みます。


また最近、中枢神経を標的とする抗体が次々と発見されています。MSと診断されてきた患者さんの中で例えば最初からてんかん、頭痛などが強かったり、精神症状が強かった方にこういった抗体が見つかることがあります。診断基準上、MSとされていても、頭痛、精神症状の出現、てんかん発作などはMSの再発時には珍しいものとされています。こういった方も抗体関連慢性脳炎(現在そんな診断名は一般的ではありません)と言った方がいいかもしれません。


注目すべきなのはこういった患者さんたちもインターフェロンβ製剤は無効か有害だということです。

 

 私は、MSとして診断基準以外の典型検査所見、画像所見、病歴を呈する場合はインターフェロンβ製剤を第一選択にしていますが、診断基準上はMSとなる患者さん、言い換えればそれ以外の既存の病名がつけれない患者さんの中にはインターフェロンβ製剤が有害に働く患者さんが含まれています。


臨床医師が読む論文や教科書にはこのあたりを述べたものは少ないのですが、基礎系の論文には時折そんな記述があります。 診断基準から診断名をつけてその診断名によって治療方針を決めるだけではなく、免疫病態を考えた上で治療方針を決めることが必要だと考えています。そのためには、診断基準に組み入られていない各患者さんの病歴、MRI、検査所見に習熟する必要があると思います。

 

私は京都大学神経内科外来水曜日、北野病院神経内科外来木曜日、康生会武田病院神経内科土曜日の外来を担当しています。


必ずしもオープンな形式になっていませんので、どうやって受診をしたらいいかわからないと伝えられることがあります。 もし、受診など希望でしたらMSキャビンまでご連絡をください。 どうぞよろしくお願いいたします。

2015.2.16

少し前に京都多発性硬化症ラボというブログを始めました。MSキャビンホームページのリニューアルに伴い、MSキャビンの中で書いてはと勧められました。


ブログ名に近藤の名前をはずしてねとお願い済みですが、今のところそのままです。京都多発性硬化症ラボで書いた内容をこちらにもアップしたいと思います。しばらく、こちらに書いた内容を元のブログにもアップしていこうと思います。


最初は私の仲間達の紹介です。


私は京都大学と京都府立医科大学に所属していてMS、 NMOに興味を持っている若い医師と一緒に神経免疫疾患の臨床研究をしています。京大だけでもなく、京都府立医科大学だけでもないので京都多発性硬化症ラボと自分たちを称することにしました。


現在のコアメンバーは
京都大学地域ネットワーク医療部准教授 近藤誉之
京都府立医科大学神経内科大学院    藤井ちひろ
京都大学神経内科大学院        岡田洋一郎
京都大学神経内科大学院        端祐一郎
です。


愛媛大学の越智先生や天理病院の景山先生、徳島病院の川村先生とは定期的に 若い医師向けに行っている研究会の講師などをお願いしたり、共同研究をしています。

 

私は京都大学神経内科外来水曜日、北野病院神経内科外来木曜日、康生会武田病院神経内科土曜日の外来を担当しています。必ずしもオープンな形式になっていませんので、どうやって受診をしたらいいかわからないと伝えられることがあります。


もし、受診など希望でしたらMSキャビンまでご連絡をください。

どうぞよろしくお願いいたします。

2015.1.26

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