MS治療とリンパ球数|MSキャビン(多発性硬化症 視神経脊髄炎)

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近藤誉之のブログ

MS治療とリンパ球数

フィンゴリモド(ジレニア®/イムセラ®)服用中のリンパ球減少についてご質問がありましたので、解説します。

 

末梢血リンパ球数が問題になる最も大きな理由は、感染症を発症するリスクが高く、また重篤化しやすいからだと思います。

 

一般的にはリンパ球にして800以下になると感染リスクが上がるとされていると思います。ジレニア®/イムセラ®の治験でも白血球数3500以下、リンパ球数800以下の方は感染しやすい可能性があるとしてエントリーできませんでしたし、帯状疱疹のリスクなどは若干上昇すると思われます。

 

しかし実際に問題が起きやすいのは、リンパ球数が500以下になった時だと思います。ニューモシスティス肺炎もリンパ球数が500以下になった時に注意する必要があり、予防的に抗菌剤を使用するのが通常です。


進行性多巣性白質脳症(PML: JCウイルスによる重篤な脳症)のリスクは独立して論じる方がいいかもしれませんが、2017年春に発売されると思われるテクフィデラ®でPMLのリスクを考慮しなければいけないのは、リンパ球数が500以下の状態が長く続く場合と推察されています。

 

もっとも、通常の薬剤でリンパ球数500であってもPMLのリスクが上昇するとは言えません。リンパ球数減少の原因になっている薬剤や原因、そして病原体によっても感染症リスクは異なり、複雑です。

 

AIDSにおけるリンパ球と感染症などの発症リスクに関しては「HIVとそのはたらき(HIV/AIDS先端医療開発センター)」に示されています。示されているのはリンパ球数のデータそのものではなく、リンパ球の中で60-70%を占めるとされるCD4T細胞の数と感染症や悪性リンパ腫との相関です。

 

HIVではリンパ球数の中でCD4T細胞の割合も低下しますし、前述のように薬剤によるリンパ球数減少とHIV感染と同列に扱うことはできません。しかし、免疫不全になった時にかかりやすい感染症の順番は概ね一致しています。

 

また実際の感染リスクは、好中球数(白血球のリンパ球でない主要な細胞)や抗体の量などにも影響されます。通常は薬剤によって好中球が1000以下の場合や1000以下になることが予想される状況では好中球を増加させる薬剤を用いたり、治療選択の変更を検討します。

 

ジレニア®/イムセラ®以外の薬剤を使用している場合以外、リンパ球数の数だけで治療中止をすることは少ないと思います。疾患のコントロール不良が重篤な状況になりうる場合は感染症のリスクがあってもその治療を継続する場合もあります。もちろんγグロブリンなどを使用して免疫抑制剤やプレドニン®を減量することもありえます。リンパ球数減少自体が自己免疫が原因である場合は、あえて免疫抑制剤を使用する場合もあります。

 

自己免疫疾患におけるリンパ球数の減少にどう対応するのかには明確な答えはなく、疾患をコントロールできる範囲で感染症に関する予防投薬も行いながらリスクをできるだけ軽減するということしかありません。感染症が自己免疫疾患より、より重篤である場合は、それに応じた治療選択になるのだと思います。

 

他の薬剤とは異なり、ジレニア®/イムセラ®はリンパ球数の数と使用に関して基準が設けられています。適正使用ガイドでは、ジレニア®/イムセラ®ではリンパ球数<200を切った場合はだいたい2週間後にリンパ球数を再測定し、再び200を切れば一度中止し、リンパ球数が600以上になるのを待って再開することが推奨されています。

 

リンパ球数200の状態は感染リスクが非常に高い状態と考えられていますが、ジレニア®/イムセラ®では通常の状態に比べて大きくリンパ球数が減っても感染症頻度はそれほど増大しないとされています。それは、ジレニア®/イムセラ®の服用によって減りやすいリンパ球と減りにくいリンパ球があるからです。

 

ジレニア®/イムセラ®はリンパ球がリンパ組織から血液に移動できなくする薬です。ですが、そもそもリンパ球にはリンパ組織に戻っていくリンパ球とリンパ組織に戻らず体内を循環しているリンパ球があります。リンパ組織に元々戻らないリンパ球が体内のパトロールに重要と思われますが、このリンパ球はジレニア®/イムセラ®に大きな影響を受けないと考えているからです。とはいえ、帯状疱疹にはやはりかかりやくなります。

 

ステロイドも含めて一般的な免疫抑制剤は、パトロールしているリンパ組織に戻らないリンパ球数も減らします。ですから、ジレニア®/イムセラ®とステロイドや免疫抑制剤は併用してはいけません。再発期の急性期治療としてのステロイドパルスは禁忌とはされていませんし、必要な場合はあると思います。しかし、今までの診療に比べて十分な慎重さが必要です。

 

ジレニア®/イムセラ®使用中に感染症で亡くなられた患者さんの多くがステロイドパルスを頻回にされていたことは留意すべきです。また、リンパ組織からのリンパ球の動員が感染している場に妨げられているので、感染拡大につながりやすいという側面があります。

 

ジレニア®/イムセラ®の使用においてリンパ球数200という基準が設けられたのは大きな根拠があってのことではありません。だいたいこれぐらいなら大丈夫かなという程度の根拠です。製薬会社は発売前の臨床試験の結果などからリンパ球数が200以下になった患者さんとそうでない患者さんの間に感染症のなりやすさが異ならないというデータを医師の研究会でよく述べています。ある程度の根拠だとは思います。

 

けれども、感染リスクは長期使用によって明らかにされるものもあり、また臨床試験においてリンパ球数が200以下がどの程度続いていたのかなど詳細は不明です。とはいえ、今のところ、リンパ球数を200より多く保たなければいけないという根拠は希薄です。

 

製薬会社依頼の講演では言ってはいけないこととされていますが(添付文書にない、きちんとしたデータがないというのが理由)、リンパ球数200をきるあるいは200に近くなるとジレニア®/イムセラ®を隔日投与にする専門家は相当数います。私の場合もリンパ球数をみながら薬剤服用の頻度を調節した結果、週に1回投与になったものの再発抑制が十分にできている方もいます。ただし、毎日服用に比較して有効性が減少する可能性は否定できないとの意見はありえます。

 

ジレニア®/イムセラ®使用に関して、私自身はリンパ球数200を切らないように薬剤服用頻度を調整する、他の免疫抑制剤やステロイドと併用しない、急性期治療に関してはステロイドパルスを最小限に使用するということにしています。

2016.12.28

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