2016 12月|MSキャビン(多発性硬化症 視神経脊髄炎)

MS CABIN

多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)と視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder; NMOSD)の情報を提供しています。
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近藤誉之のブログ

2016年12月の投稿一覧

MSはご存知のように中枢神経の複数の箇所に炎症がおこることにより再発と寛解を繰り返す疾患です。最終的には他の疾患を除外してMSらしさを考慮して診断されるのですが、実はMSらしさというのも極めて曖昧なものです。

 

例えば、視神経脊髄炎(NMO)は抗アクアポリン4(AQP4)抗体が疾患バイオマーカーとして発見されるまでは日本ではMSと扱われてきました。現在でもMSとよく似た臨床経過をたどる疾患として認識されていますが、抗AQP4抗体の有無を問わなければ、NMOはMSらしいと言えるのでしょうか。

 

NMOでは1回の視神経炎で失明にいたることもありますが、MSでは1回の視神経炎で失明にいたることはまずないとされています。MSの視神経炎は左右同時におこることもまずありませんが、NMOでは両側に同時に視神経炎が起こることがあります。視神経の中でも障害される場所が異なるので、NMOで認める耳側半盲(耳側すなわち外側の視野が見えないこと)もMSではまずおきません。

 

脊髄炎の程度もNMOではより強いのが特徴で、1回の脊髄炎で車椅子になってしまうことがありえますが、MSではかなりの程度回復するのが普通です。NMOでおこる脳病変もMSとしては典型的でない方が多いと思います。髄液一般所見(細胞数,蛋白)もMSでは2/3が正常ですし、異常があっても正常より軽度の増加にとどまりますが、NMOでは著明な細胞数の増多や蛋白の増加がおこることがあります。

 

MSに限らないのですが、ある疾患を診断する時に、その疾患を示唆しない臨床症状、臨床経過、検査所見を「red flag(レッドフラッグ)」ということがあります。

 

NMOで起こりうることとして、上に挙げた1回のアタックで強い後遺症を残す視神経炎も、左右同時におこる視神経炎も、脊髄炎も、MSとしてはred flagということになりますし、髄液細胞数、蛋白の著しい増多もred flagです。3椎体以上の長い脊髄病変もred flagです。MSらしい病変が脳にないこともMSらしくない病変(この定義も難しい)があるのもred flagです。

 

ただし、現在の診断基準ではred flagが単独であったとしても診断を否定するものではありません。MSよりも臨床経過を説明しやすい他の疾患が同定できなければ原則としてMSと診断することは許容されます。英語では簡単に”no better explanation”という言葉が使用されるにすぎません。実際に、日本の臨床の場ではNMOなど他の疾患を示す検査所見が得られなければMSと診断されていることが多いのです。

 

次に、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)とMSについても考えてみましょう。ADEMは複数の病変が感染やワクチン接種後におこることの多い、脳に脱髄炎症が多発する単相性疾患(1回で終わる)です。比較的大きな多発性病変によって意識障害や脳高次機能障害、時にけいれん発作を起こす疾患です。

 

MSでは意識障害やけいれんで初発することは極めて稀とされています(red flag)。ですが、ADEMのようなエピソードを何回も繰り返す患者さんをどう考えたらいいでしょう。

 

一部には抗AQP4抗体が見つかったりしてNMO関連疾患であったりする訳ですが、多くの場合にははっきりと特定の疾患を示す検査所見は見つかりません。小児の場合は多相性ADEMという病態が定義されていますが、成人ではMSと診断されていることが少なくありません。小児の場合でも2回目のエピソードにおいて意識障害やけいれん、行動異常を伴わなければMSと診断する方が良いとされています。

 

また意識障害や行動異常を繰り返す場合でも、慢性的に長期にわたり再発を繰り返す場合はMSの診断をしてもかまわない旨も書かれていたりします。

 

つまり、Red flagがあった場合の診断は各施設、各医師によって様々です。非典型MSという言い方がされることもありますし、分類不能型脱髄疾患とすることもあります。東北大学のHPの中の「多発性硬化症と視神経脊髄炎の診断に関する基本的考え方」では「多発性硬化症と診断される症例の中には、典型例とともに非典型例も含まれていることを認識しておく必要があります」という記述があります。

 

Red flagのあるMSあるいは非典型MSの治療はどうしたら良いでしょうか。私もですが一部のMS専門家は、ステロイドや通常の免疫抑制薬を使用していると思います。それは、Red flagのあるMSと非典型MSで、MS-DMD(MSの再発予防薬)によって悪化する患者さんを多く経験した結果であり、たいていの場合ステロイドや免疫抑制剤で再発を防止できていることを実感しているからです。

 

ただしRed flagのあるMSに関して、MS-DMD(MSの再発予防薬)を使用しない方がいいと明確に書かれた論文はほとんどありません。エビデンスはないが、MS-DMDの使用を考慮してもよいと書かれている論文も少なくありません。このあたりは、答えが教科書や論文に書かれていない領域です。

 

個人的に面白いなと思ったのは、現在のMcDonaldの診断基準の前に最も汎用されていたPoserの診断基準を作ったPoser先生5、ADEM様エピソードを繰り返す患者さんをMSと診断すべきではないと怒っていますし、ステロイドの使用に関しても触れています。

 

私自身は現在、非典型MSという言葉をできるだけ使用しないようにしています。このMSは典型的でないというのはかなり感覚的で、おそらく専門家同士でも必ずしも一致しないでしょう。だから今まで論文化できず、エビデンスにならなかったと思うからです。Red flagの定義はいろいろな立場から様々なものがありますが、少なくとも定義づけることができます。

 

現在のred flagの概念はあくまで診断のためのもので、しかも100%診断を縛るものではありません。今の状況ではred flagがありながら単純にMSと診断され、MS-DMDを使用されている患者さんが少なからずいます。

 

MS専門の看板をあげていると、そういった患者さんが治療によって悪化して紹介されてくるケースを経験します。あるいは、治療効果のない状況で過ごしている患者さんもいます。個人的には、red flagのある患者さんの多くにはMS-DMD(特にインターフェロンβ製剤)はリスクがあると考えています。インターフェロンβ製剤はMSと病態の異なる自己免疫を悪化させる(例NMO)があるからです。

 

京都多発性硬化症ラボでは、自分たちで定義づけしたred flagをもとに薬剤への治療反応性を解析しはじめました。red flagを診断のために使うだけでなく、治療選択のために使用するということが必要なのだという考え方を広めたいからです。

2016.12.31

フィンゴリモド(ジレニア®/イムセラ®)服用中のリンパ球減少についてご質問がありましたので、解説します。

 

末梢血リンパ球数が問題になる最も大きな理由は、感染症を発症するリスクが高く、また重篤化しやすいからだと思います。

 

一般的にはリンパ球にして800以下になると感染リスクが上がるとされていると思います。ジレニア®/イムセラ®の治験でも白血球数3500以下、リンパ球数800以下の方は感染しやすい可能性があるとしてエントリーできませんでしたし、帯状疱疹のリスクなどは若干上昇すると思われます。

 

しかし実際に問題が起きやすいのは、リンパ球数が500以下になった時だと思います。ニューモシスティス肺炎もリンパ球数が500以下になった時に注意する必要があり、予防的に抗菌剤を使用するのが通常です。


進行性多巣性白質脳症(PML: JCウイルスによる重篤な脳症)のリスクは独立して論じる方がいいかもしれませんが、2017年春に発売されると思われるテクフィデラ®でPMLのリスクを考慮しなければいけないのは、リンパ球数が500以下の状態が長く続く場合と推察されています。

 

もっとも、通常の薬剤でリンパ球数500であってもPMLのリスクが上昇するとは言えません。リンパ球数減少の原因になっている薬剤や原因、そして病原体によっても感染症リスクは異なり、複雑です。

 

AIDSにおけるリンパ球と感染症などの発症リスクに関しては「HIVとそのはたらき(HIV/AIDS先端医療開発センター)」に示されています。示されているのはリンパ球数のデータそのものではなく、リンパ球の中で60-70%を占めるとされるCD4T細胞の数と感染症や悪性リンパ腫との相関です。

 

HIVではリンパ球数の中でCD4T細胞の割合も低下しますし、前述のように薬剤によるリンパ球数減少とHIV感染と同列に扱うことはできません。しかし、免疫不全になった時にかかりやすい感染症の順番は概ね一致しています。

 

また実際の感染リスクは、好中球数(白血球のリンパ球でない主要な細胞)や抗体の量などにも影響されます。通常は薬剤によって好中球が1000以下の場合や1000以下になることが予想される状況では好中球を増加させる薬剤を用いたり、治療選択の変更を検討します。

 

ジレニア®/イムセラ®以外の薬剤を使用している場合以外、リンパ球数の数だけで治療中止をすることは少ないと思います。疾患のコントロール不良が重篤な状況になりうる場合は感染症のリスクがあってもその治療を継続する場合もあります。もちろんγグロブリンなどを使用して免疫抑制剤やプレドニン®を減量することもありえます。リンパ球数減少自体が自己免疫が原因である場合は、あえて免疫抑制剤を使用する場合もあります。

 

自己免疫疾患におけるリンパ球数の減少にどう対応するのかには明確な答えはなく、疾患をコントロールできる範囲で感染症に関する予防投薬も行いながらリスクをできるだけ軽減するということしかありません。感染症が自己免疫疾患より、より重篤である場合は、それに応じた治療選択になるのだと思います。

 

他の薬剤とは異なり、ジレニア®/イムセラ®はリンパ球数の数と使用に関して基準が設けられています。適正使用ガイドでは、ジレニア®/イムセラ®ではリンパ球数<200を切った場合はだいたい2週間後にリンパ球数を再測定し、再び200を切れば一度中止し、リンパ球数が600以上になるのを待って再開することが推奨されています。

 

リンパ球数200の状態は感染リスクが非常に高い状態と考えられていますが、ジレニア®/イムセラ®では通常の状態に比べて大きくリンパ球数が減っても感染症頻度はそれほど増大しないとされています。それは、ジレニア®/イムセラ®の服用によって減りやすいリンパ球と減りにくいリンパ球があるからです。

 

ジレニア®/イムセラ®はリンパ球がリンパ組織から血液に移動できなくする薬です。ですが、そもそもリンパ球にはリンパ組織に戻っていくリンパ球とリンパ組織に戻らず体内を循環しているリンパ球があります。リンパ組織に元々戻らないリンパ球が体内のパトロールに重要と思われますが、このリンパ球はジレニア®/イムセラ®に大きな影響を受けないと考えているからです。とはいえ、帯状疱疹にはやはりかかりやくなります。

 

ステロイドも含めて一般的な免疫抑制剤は、パトロールしているリンパ組織に戻らないリンパ球数も減らします。ですから、ジレニア®/イムセラ®とステロイドや免疫抑制剤は併用してはいけません。再発期の急性期治療としてのステロイドパルスは禁忌とはされていませんし、必要な場合はあると思います。しかし、今までの診療に比べて十分な慎重さが必要です。

 

ジレニア®/イムセラ®使用中に感染症で亡くなられた患者さんの多くがステロイドパルスを頻回にされていたことは留意すべきです。また、リンパ組織からのリンパ球の動員が感染している場に妨げられているので、感染拡大につながりやすいという側面があります。

 

ジレニア®/イムセラ®の使用においてリンパ球数200という基準が設けられたのは大きな根拠があってのことではありません。だいたいこれぐらいなら大丈夫かなという程度の根拠です。製薬会社は発売前の臨床試験の結果などからリンパ球数が200以下になった患者さんとそうでない患者さんの間に感染症のなりやすさが異ならないというデータを医師の研究会でよく述べています。ある程度の根拠だとは思います。

 

けれども、感染リスクは長期使用によって明らかにされるものもあり、また臨床試験においてリンパ球数が200以下がどの程度続いていたのかなど詳細は不明です。とはいえ、今のところ、リンパ球数を200より多く保たなければいけないという根拠は希薄です。

 

製薬会社依頼の講演では言ってはいけないこととされていますが(添付文書にない、きちんとしたデータがないというのが理由)、リンパ球数200をきるあるいは200に近くなるとジレニア®/イムセラ®を隔日投与にする専門家は相当数います。私の場合もリンパ球数をみながら薬剤服用の頻度を調節した結果、週に1回投与になったものの再発抑制が十分にできている方もいます。ただし、毎日服用に比較して有効性が減少する可能性は否定できないとの意見はありえます。

 

ジレニア®/イムセラ®使用に関して、私自身はリンパ球数200を切らないように薬剤服用頻度を調整する、他の免疫抑制剤やステロイドと併用しない、急性期治療に関してはステロイドパルスを最小限に使用するということにしています。

2016.12.28

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