MSの診断とred flagそして治療選択|MSキャビン(多発性硬化症 視神経脊髄炎)

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近藤誉之のブログ

MSの診断とred flagそして治療選択

MSはご存知のように中枢神経の複数の箇所に炎症がおこることにより再発と寛解を繰り返す疾患です。最終的には他の疾患を除外してMSらしさを考慮して診断されるのですが、実はMSらしさというのも極めて曖昧なものです。

 

例えば、視神経脊髄炎(NMO)は抗アクアポリン4(AQP4)抗体が疾患バイオマーカーとして発見されるまでは日本ではMSと扱われてきました。現在でもMSとよく似た臨床経過をたどる疾患として認識されていますが、抗AQP4抗体の有無を問わなければ、NMOはMSらしいと言えるのでしょうか。

 

NMOでは1回の視神経炎で失明にいたることもありますが、MSでは1回の視神経炎で失明にいたることはまずないとされています。MSの視神経炎は左右同時におこることもまずありませんが、NMOでは両側に同時に視神経炎が起こることがあります。視神経の中でも障害される場所が異なるので、NMOで認める耳側半盲(耳側すなわち外側の視野が見えないこと)もMSではまずおきません。

 

脊髄炎の程度もNMOではより強いのが特徴で、1回の脊髄炎で車椅子になってしまうことがありえますが、MSではかなりの程度回復するのが普通です。NMOでおこる脳病変もMSとしては典型的でない方が多いと思います。髄液一般所見(細胞数,蛋白)もMSでは2/3が正常ですし、異常があっても正常より軽度の増加にとどまりますが、NMOでは著明な細胞数の増多や蛋白の増加がおこることがあります。

 

MSに限らないのですが、ある疾患を診断する時に、その疾患を示唆しない臨床症状、臨床経過、検査所見を「red flag(レッドフラッグ)」ということがあります。

 

NMOで起こりうることとして、上に挙げた1回のアタックで強い後遺症を残す視神経炎も、左右同時におこる視神経炎も、脊髄炎も、MSとしてはred flagということになりますし、髄液細胞数、蛋白の著しい増多もred flagです。3椎体以上の長い脊髄病変もred flagです。MSらしい病変が脳にないこともMSらしくない病変(この定義も難しい)があるのもred flagです。

 

ただし、現在の診断基準ではred flagが単独であったとしても診断を否定するものではありません。MSよりも臨床経過を説明しやすい他の疾患が同定できなければ原則としてMSと診断することは許容されます。英語では簡単に”no better explanation”という言葉が使用されるにすぎません。実際に、日本の臨床の場ではNMOなど他の疾患を示す検査所見が得られなければMSと診断されていることが多いのです。

 

次に、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)とMSについても考えてみましょう。ADEMは複数の病変が感染やワクチン接種後におこることの多い、脳に脱髄炎症が多発する単相性疾患(1回で終わる)です。比較的大きな多発性病変によって意識障害や脳高次機能障害、時にけいれん発作を起こす疾患です。

 

MSでは意識障害やけいれんで初発することは極めて稀とされています(red flag)。ですが、ADEMのようなエピソードを何回も繰り返す患者さんをどう考えたらいいでしょう。

 

一部には抗AQP4抗体が見つかったりしてNMO関連疾患であったりする訳ですが、多くの場合にははっきりと特定の疾患を示す検査所見は見つかりません。小児の場合は多相性ADEMという病態が定義されていますが、成人ではMSと診断されていることが少なくありません。小児の場合でも2回目のエピソードにおいて意識障害やけいれん、行動異常を伴わなければMSと診断する方が良いとされています。

 

また意識障害や行動異常を繰り返す場合でも、慢性的に長期にわたり再発を繰り返す場合はMSの診断をしてもかまわない旨も書かれていたりします。

 

つまり、Red flagがあった場合の診断は各施設、各医師によって様々です。非典型MSという言い方がされることもありますし、分類不能型脱髄疾患とすることもあります。東北大学のHPの中の「多発性硬化症と視神経脊髄炎の診断に関する基本的考え方」では「多発性硬化症と診断される症例の中には、典型例とともに非典型例も含まれていることを認識しておく必要があります」という記述があります。

 

Red flagのあるMSあるいは非典型MSの治療はどうしたら良いでしょうか。私もですが一部のMS専門家は、ステロイドや通常の免疫抑制薬を使用していると思います。それは、Red flagのあるMSと非典型MSで、MS-DMD(MSの再発予防薬)によって悪化する患者さんを多く経験した結果であり、たいていの場合ステロイドや免疫抑制剤で再発を防止できていることを実感しているからです。

 

ただしRed flagのあるMSに関して、MS-DMD(MSの再発予防薬)を使用しない方がいいと明確に書かれた論文はほとんどありません。エビデンスはないが、MS-DMDの使用を考慮してもよいと書かれている論文も少なくありません。このあたりは、答えが教科書や論文に書かれていない領域です。

 

個人的に面白いなと思ったのは、現在のMcDonaldの診断基準の前に最も汎用されていたPoserの診断基準を作ったPoser先生5、ADEM様エピソードを繰り返す患者さんをMSと診断すべきではないと怒っていますし、ステロイドの使用に関しても触れています。

 

私自身は現在、非典型MSという言葉をできるだけ使用しないようにしています。このMSは典型的でないというのはかなり感覚的で、おそらく専門家同士でも必ずしも一致しないでしょう。だから今まで論文化できず、エビデンスにならなかったと思うからです。Red flagの定義はいろいろな立場から様々なものがありますが、少なくとも定義づけることができます。

 

現在のred flagの概念はあくまで診断のためのもので、しかも100%診断を縛るものではありません。今の状況ではred flagがありながら単純にMSと診断され、MS-DMDを使用されている患者さんが少なからずいます。

 

MS専門の看板をあげていると、そういった患者さんが治療によって悪化して紹介されてくるケースを経験します。あるいは、治療効果のない状況で過ごしている患者さんもいます。個人的には、red flagのある患者さんの多くにはMS-DMD(特にインターフェロンβ製剤)はリスクがあると考えています。インターフェロンβ製剤はMSと病態の異なる自己免疫を悪化させる(例NMO)があるからです。

 

京都多発性硬化症ラボでは、自分たちで定義づけしたred flagをもとに薬剤への治療反応性を解析しはじめました。red flagを診断のために使うだけでなく、治療選択のために使用するということが必要なのだという考え方を広めたいからです。

2016.12.31

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