フィンゴリモド —PMLとリバウンドー|MSキャビン(多発性硬化症 視神経脊髄炎)

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近藤誉之のブログ

フィンゴリモド —PMLとリバウンドー

12月に入って数日だけれど入院したりしたこともあり、少し仕事を絞りました。おかげで、いつもより少し穏やかな年末になっています。年賀状はこれからなんですけど。

 

ところで、僕自身のフィンゴリモド(イムセラ®・ジレニア®)に対するリスク評価は変わっていないのですけど今年はフィンゴリモドへの評価が一変した年になったのではないでしょうか。MS専門にしているかなり多くの先生方が昨年まではフィンゴリモドをそれほどリスクのない薬、NEDA4(疾患活動性の証拠4つがない:再発、新規脳病変、身体障害進行なし、脳萎縮なし)を目指すのが、今後のMS診療のあるべき姿である、そのためにはフィンゴリモドを積極的に使用するべきだと患者さんの会でも語り、医師向けの講演会でも語っていました。

 

講演会を後援する製薬会社もそういった先生を講師として呼び、医師への啓蒙活動?をしていました。

 

病気に対する疾患概念は時代とともに変わります。新しい知見や社会状況が影響しますが、薬剤の登場も大きな影響があります。昨今の新しい診断基準はMS治療薬が登場し、その福音を患者さんに早期より届けたいとの状況があったことを背景に作成されています。前述のNEDA4はフィンゴリモド発売に伴って主張され始めた概念です。実際にはわざわざそんな概念など作ろうが、作るまいが、より強い有効性のある薬剤の方がいいに決まっています。ただし、重篤な有害事象が起こるリスクが同じならですが。

 

思い返すと、イムセラ®発売後1年で製薬会社は発売記念講演会を開き、その際にはイムセラ®が安全だという先生を国内外から招聘し、最後の会社の代表の方の挨拶では安全性が担保されたと胸を張っていました。僕は、フィンゴリモドはリスクを意識しながら必要な患者さんに使用すべきだと考えていましたので、会社に相当な抗議をしました。担当者には、自分の娘がMSになったらすぐにイムセラ®を服用させるんだな、それで怖くないのか、とまでいった記憶がありますけど、会社は拝聴しているふりをしながらも本音は馬耳東風でした。

 

その状況がどうして今年に劇的に変わったかというと、フィンゴリモドを服用している国内の患者さんから進行性多巢性白質脳症(PML)が3人発症していることが今年の始めにわかったからです(現在は4人の患者さんが確認され、5人目の疑い症例の調査もされています)。PMLは6−7割の人が感染しているJCウイルスによる脳疾患です。発症後治療しないと、病変はどんどん拡大していき、寝たきりになったり、命を落としうる怖い病気です。

 

ちょうどテクフィデラ®が発売になったこともあり、各地でフィンゴリモドからテクフィデラ®に薬剤が変更されました。その状況を「まあ、そうだろうな」と思いながら、2つの点で違和感を感じていました。

 

まず、1つはPMLの発症は確かに日本に偏在はしているけれど、今回の事態が全く予想できないものだったのかといえばそうではなかったと思います。元々、タイサブリ®使用中のPMLも使用後2年を経過して併発するようになります。ですから、発売1年で安全宣言できる話ではないのはその1点でも明らかです。

 

リンパ球減少は一般的なPMLのリスクですが、タイサブリ®ではある特定のリンパ球が減少するとPMLのリスクが高くなるとの可能性が示されています。その特定のリンパ球とはフィンゴリモドで減少しているリンパ球です。「治療開始後数年経過してからPMLが発症する可能性」が高いと予見は困難だったと思いますが、否定はできなかったはずです。

 

第2に、PMLはMS治療薬の有害リスクとして象徴的なものですが、果たしてこの報告を冷静に捉えたときに、そもそもフィンゴリモドのリスク評価をそこまで変えるものだったのか、ということです。フィンゴリモドではすでに、クリプトコッカス感染症やヘルペス属ウイルス感染関連疾患による死亡例を含む重篤症例が報告されています。その中には、フィンゴリモドが安全だと強調されたが故の不適正使用例(ステロイドパルスの必要以上の併用など)を含みますが、こういった報告に対する多くの先生の反応は鈍いものでした。

 

僕自身もフィンゴリモドをたくさんの患者さんに使用しています。ですが、患者さんには、フィンゴリモドは生活の質を改善し、有効で本当にいい薬だけれど、わかっているリスク、わかっていないリスクを考えると、安易に使用すべきではない、との説明は必ずしていました。ですから、PMLが出現したというだけで治療変更を希望される患者さんはほとんどいませんでした。

 

さて、フィンゴリモドから他の薬剤に変更した多くの患者さんはどうなったでしょうか。多くの方は無事にスイッチできたようです。しかし、フィンゴモド離脱後のリバウンド(治療中止によって治療していない状況よりかえって疾患活動性が高くなる)をそれなりの数の患者さんが経験することになったのです。

 

このリバウンドはフィンゴリモド中止後3ヶ月ほど経過して発現します。通常の再発より大きな病変が出現することが多いようです。新しい病変の出現が完全になくなるのに数ヶ月かかることもあります。このリバウンドに対してどうすればいいのか、はまだ試行錯誤の段階です。

 

以下は私見になりますが、妊娠などを予定していなければ、経過が順調な方はフィンゴリモドを継続して行くのが無難かもしれません。その場合は定期的にMRIを撮影してPML病変を症状が出る前に見つけることが重要です。他剤への薬剤を希望する場合は、リバウンドに関して主治医とよく相談してください。リバウンドが起こる正確な頻度は今わかっていません。主治医が知らなければ教えてあげてください(MS非専門の神経内科医は知らない確率が高いです)。リバウンドは必ず時期がくれば治ります。

 

テクフィデラ®(フマル酸ジメチル)についても少し述べます。比較的安全性の高い薬剤と患者さんに説明をしています。PMLは5例(30万人の使用者)出ていますが、新しい薬剤であることを考えると頻度の評価はこれからです。

 

テクフィデラ®はリンパ球数の減少がなくても効果のある薬ですが、PMLはごく一部のリンパ球が減少した患者さんに出ているようです。リンパ球数をモニターすることでリスクのコントロールがある程度できそうなところが利点です。

 

テクフィデラ®はよく似た薬がドイツで乾癬に20年ほど使用されていた経験から安全性がある程度担保されていると考えられています。でも、実は、薬剤のリスクはそのリスクに注目していなければ浮き彫りにならないこともフマル酸による乾癬治療でわかります。フマル酸による乾癬治療下においてもPMLが12例以上発症していることがわかっていますが、テクフィデラ®が発売されるまでは乾癬治療におけるPMLの報告はありませんでした。

 

薬剤のリスク評価はとても困難です。そして安全だと盲信している状況では本当のリスク評価ができないことを示している事実だと思います。

2017.12.24

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