多発性硬化症(Multiple Sclerosis; MS)と視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica Spectrum Disorder; NMOSD)の情報を提供しています。
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トップページ > 治療薬Q&A~インターフェロン療法・アボネックス
日本での初めて再発予防薬「ベタフェロン®」の発売から6年後の2006年、インターフェロン ベータ-1a「アボネックス®」が発売されました。
このページでは、この薬についてQ&Aで解説しています。
【アボネックス®に関するニュース】
→2015/07/30「アボネックス®治療中に劇症肝炎で死亡(国内)」
新規公開:2001年5月 更新:2016年5月21日
文:MSキャビン編集委員(大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、中田郷子)
アボネックス®は、人間の体内で作られるタンパク質「インターフェロン・ベータ」を、遺伝子組み換え技術を用いて作った薬です。「アボネックス®」というのは商品名で、薬の名前は「インターフェロン ベータ-1a」といいます。
1週間に1回、自分で太ももの筋肉に注射します。自分で注射できない場合はご家族に打ってもらうこともできます。また1週間に1回、通院して注射してもらうこともできます。
国内外の臨床試験では、MSの再発回数を減らしたり、再発した時の症状を軽くしたりする効果が示されています。またMRI検査で確認できる病巣の拡大や新しい病巣の出現を減らす作用もあります。
アボネックス®を使ってもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。
使用期間は決められていません。アボネックス®は今後の再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けたほうが良いといえます。
海外の臨床試験において、偽薬群と比較して年間再発率を約30%減らしたことが示されましたが、これは、治験に参加した患者さんの1年間の再発の回数の総和がアボネックス®を使用した患者さんでは30%少なかったということです。
アボネックス®を使うことで再発が止まる(100%)人もいれば、再発回数に全く変化がない(0%)人もいますし、アボネックス®で再発が半分に減る(50%)人もいます。このようにアボネックス®による再発回数が減る効果は患者さんによって違いますが、全ての患者を対象としてアボネックス®使用前後での再発回数の変化を計算すると、平均で30%減少したということです。
海外の臨床試験ではMSの障害度の進行を抑制したことが報告されていますが、日本におけるアボネックス®の適応症は「MSの再発予防」です。
添付文書には小児に対する安全性は確立していないと書かれていますが、日本で発売されて10年近くが経過した今でも、小児MSに対する悪影響は報告されていません。実際にアボネックス®を使っている小児MSの人は、体格に合わせて薬の用量を調整しています。年齢によっては保護者が打っています。
視神経脊髄炎(NMOSD)の確定診断がある人にアボネックス®を使うと、効果がないばかりか悪化させてしまう可能性があります。NMOSDの人は決してアボネックス®を使わないでください。
国内の臨床試験で報告された主な副作用は発熱、頭痛、などのインフルエンザ様症状です。また注射をした部位が赤くなったり痛くなったりする注射部位反応が報告されていますが、筋肉注射の手技が上手くいかず皮下注射になったものだと考えられています。
そのほか、不安感や絶望感が生じるような抑うつ状態になることや、リンパ球の減少や肝機能障害がみられることがあります。また国内でアボネックス®を始めたばかりの方が1名、劇症肝炎を発症し、亡くなっています。
使い始めに、現在の症状が若干悪化することがあります。これはアボネックス®の副作用であるインフルエンザ様症状に伴って起こることが多く、注射後3〜24時間で現れて、数時間から数日間持続することがあります。特に出るのはつっぱりの症状ですが、多くは一過性です。 3ヶ月もすればだんだん落ち着いてきます。
アボネックス®は再発寛解型MSの人に使われますが、全ての人に効果があるわけではありません。治療前に比べて病状が変わらない場合、また大きな再発を起こしたり再発回数が増えたりなど悪化するような場合は、アボネックス®が合っていないかもしれません。
副作用の多くは対処できます。インフルエンザ様症状に対しては解熱鎮痛剤を服用し、注射部位反応に対しては手技を確認し、注射できるところを毎回変えます。抑うつ状態も抗うつ剤や精神療法でコントロールできることが多いので、精神的な変化に気づいた時は主治医に相談してください。
副作用の出方、種類、程度、治まり方には個人差があります。たとえばインフルエンザ様症状は通常、始めてから2~3ヶ月で治まってきますが、数日で治まることも、逆に3ヶ月以上続くこともあります。また治まっていても、しばらくたってから突然、インフルエンザ様症状が出る人もいます。
上手く対処できないようなら、薬の量を減らしたり他の薬剤に切り替えたりします。
また国内で劇症肝炎を発症し、亡くなった方がいることからも、導入初期は特に、またしばらく治療を続けている場合も定期的な血液検査が必要です。治療後に悪心・嘔吐、倦怠感、食欲不振、尿濃染(尿が茶色になる)、眼球結膜黄染(白目の部分が黄色くなる)などの症状が出た場合は、主治医に伝えてください。
薬剤の調整や注射手技を正確に習得するため、治療を始める時はしっかり指導を受ける必要があります。また治療を始めたばかりの頃は特に、発熱、頭痛、倦怠感などの副作用が出ることが多いです。以上のことから通常、1週間程度の入院がすすめられています。しかし外来でできる施設もあります。主治医にお尋ねください。
アボネックス®はMSの治療薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。
1週間に1回、太ももの筋肉に注射します。誰かに手伝ってもらえる場合は、上腕の筋肉に注射してもらいます。患者さんの体型に合わせて、針の太さ・長さを選びます。
少々時間が変わっても問題ありません。寝ている間に副作用が出終わってしまうように、就寝前の注射がすすめられていますが、就寝前でなくても構いません。
注射部の保護ため、また副作用のインフルエンザ様症状を予防するためにも、注射直後の入浴はすすめられていません。多くの人は、入浴後少し経った就寝前に注射をしています。注射直後に入浴する際は、注射部位をゴシゴシこすらないようにしましょう。翌日の入浴では、通常通りに体を洗っても問題ありません。
多くの患者さんが、注射の曜日を決めているようですが、予定の注射日から1〜2日以内であれば特に問題ありません。
アボネックス®は冷蔵庫で保管します。庫内温度は2〜8℃で、凍結しないように注意してください。注射する時は室温に戻しますが、冷蔵庫から出して30分くらいで室温に戻ります。また常温にしたら12時間以内に使用するようにし、それ以上経ったものは、使わないでください。高温は必ず避けてください。遮光も必要です。
温度が上がり過ぎないように保冷剤や携帯用保冷バッグを利用し、現地に到着したらなるべく早く冷蔵庫に入れてください。
アボネックス®は空港のX線検査を通過できます。貨物室の環境を考え、手荷物で機内に持ち込むようにしてください。手荷物検査で針を持参していることを伝えましょう。海外旅行に行く際は、英文の診断書と薬剤証明書を携帯することをおすすめします。早めに主治医に相談してください。 航空会社(日本航空、全日空)では、注射器を機内に持ち込む場合は、予約の時点で伝えておくことをすすめています。
※空港では原則「注射針は、機内で使用するもの以外は持ち込み禁止」とされています。しかし現状として国内の場合、手荷物検査の際に針を持参していることを伝えれば、問題ないようです。
注射自体は徐々に生活の一部として慣れてきます。しかし治療開始初期では特に副作用が多く出現し、中でもインフルエンザ様症状が強い場合は、生活のリズムが変化してしまうかもしれません。副作用の出方と程度は個々の患者さんで違っていて、生活リズムに支障を来すほど副作用が出る人もいれば、全く問題ない人もいます。
生活に大きく支障を来している場合は、主治医に伝えてください。副作用の対処法、あるいは他の薬への切り替えを検討してくれます。
続けられますが、治療開始初期はインフルエンザ様症状が出ることが多いため、休みを取ることをおすすめします。インフルエンザ様症状は翌日をピークに出ることが多いので、休日に合わせて注射日を決めることで、仕事を続けながら治療できます。
アボネックス®使用中の食事制限はありません。また飲酒をしてはいけないということもありません。ただアボネックス®は肝臓で分解されます。それを考えると過度の飲酒やアボネックス®の注射日に飲酒するのは避けたほうが良さそうです。注射日ではない日にお酒を飲むのが無難でしょう。
注射部位の感染予防のため、注射直後にプールや温泉に入ることはおすすめできませんが、注射後数時間が経過している場合は制限ありません。
注射部位を日光に当ててはいけないことはありません。しかし皮膚が赤くなるほどの過度の日焼けはMSに良くないこと、また注射部位を大切に保護するという観点から、強い日光を浴びるような場合は、日焼け止めクリームや日傘を使うなど紫外線対策をおこなってください。
アボネックス®は、漢方薬の「小柴胡湯(しょうさいことう)」とは併用できません。ほかのインターフェロン製剤で、小柴胡湯との併用により間質性肺炎を発症した報告があるからです。小柴胡湯のどの成分が原因なのかは不明です。
そのほか併用を注意すべき薬剤として、抗てんかん薬、アンチピリン(解熱鎮痛剤)、ワルファリン(抗凝固薬)、テオフィリン(喘息治療薬)などがあります。アボネックス®と併用するとこれらの薬剤の作用が強くなることがあります。市販の薬については、服用する際は主治医や薬剤師に相談してください。
インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンは併用禁止にはなっていません。むしろMSの人にインフルエンザ予防接種は推奨されています。ただ、たとえばインフルエンザの予防接種後に倦怠感や発熱、頭痛などが起きることがあるので、アボネックス®の注射日ではない日に予防接種を受けたほうが、気持ちの面でも良さそうです(編集委員の見解)。
ステロイド薬とアボネックス®の併用は禁止されていません。実際には、ステロイドパルス療法中もアボネックス®を継続する人、あるいはステロイドパルス中はアボネックス®をお休みする人、どちらもいます。決まりはありません。
アボネックス®の痛みに関しては、多くの人が「思ったよりも痛くない」という感想を持っています。とはいえ注射なので、針を刺す痛みがないわけではありません
注射時の痛みが減るよう、なるべく筋肉をリラックスさせてください。注射前に深呼吸を数回し、息を吐く時に合わせて針を刺すのも良いでしょう。販売会社から注射部位の感覚を鈍くする「アボエイド®」が提供されています。主治医にお尋ねください。
音楽をかけたり、好きな香りのお香を焚いたり、家族や友達に励ましてもらうのも効果的です。
またアボネックス®は注射日を1〜2日間は動かせるので、その範囲内であれば、打てる時に打っておくのも良いでしょう。ただアボネックス®は「1週間に1回」で効果が示された薬です。頻繁に注射日を動かし過ぎないようにしてください。
体内でアボネックス®に対する「中和抗体」が作られている可能性があります。アボネックス®の中和抗体産生率は2〜5%と低いのですが、測定してもらうことはできます。ただ中和抗体の有無に関わらず、事実として再発を起こすようになっているのなら、治療薬の変更が必要です。
アボネックス®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。ただし、妊娠中は流産の可能性があるため、アボネックス®を使えません。
アボネックス®は、少なくとも妊娠1ヶ月前に中止することが必要です。妊娠中にアボネックス®を継続していると、赤ちゃんの低体重、流産の率が高くなる可能性があるからです。止める時は3週間〜1か月ほどかけてゆっくり減量し、中止することをおすすめします。急に中止にすると免疫バランスが崩れてしまい、せっかく安定している病状が悪化する可能性があります。
妊娠・出産は、MSの再発がなく、症状が安定していることが原則です。まずは主治医とよく相談してください。
妊娠に気づいたらその日のうちにアボネックス®を中止し、主治医に報告してください。妊娠がわかった時点でアボネックス®を中止し、元気な赤ちゃんを産んだ人の話はあちこちで聞かれます。慌てず、冷静に対応するよう努めてください。アボネックス®が赤ちゃんの奇形を引き起こしたという報告はありません。
一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、なるべく早めに再開することがすすめられています。できれば初乳が済んだら再開するのが望ましいとされていますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。
母乳を介して乳児に移行する可能性があるので、授乳中はアボネックス®を使えません。
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