多発性硬化症(MS:Multiple Sclerosis)は、中枢神経系(脳・脊髄・視神経)が傷つき、視力障害・感覚障害・運動障害などさまざまな症状があらわれる自己免疫疾患です。日本では指定難病に登録されており、約2万人以上の患者さんがいます。20〜40歳代の若い世代、特に女性に多いのが特徴です。
完治させる薬はまだありませんが、近年は治療が大きく進歩しており、早期診断と適切な治療によって、多くの方が仕事や子育てを続けながら日常生活を送っています。
多発性硬化症(MS)― 基本情報
| 病気の種類 | 自己免疫疾患(中枢神経系の炎症性脱髄疾患) |
| 日本の患者数 | 約2万人以上 |
| 好発年齢 | 20〜40歳代 |
| 男女比 | 女性が男性の2〜3倍 |
| 主な症状 | 視力障害、感覚障害、運動障害、疲労など |
| 経過 | 発症時で約8割が再発寛解型(RRMS) |
| 治療 | 急性期:ステロイドパルス療法/長期:疾患修飾薬(8剤承認) |
| 制度 | 指定難病(医療費助成あり) |
多発性硬化症(MS)― よくあるQ&A
1. 多発性硬化症(MS)の原因と仕組み
MSは、本来は外敵から体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身の神経を攻撃してしまう自己免疫疾患のひとつです。
神経を包んでいる「髄鞘(ずいしょう)」と呼ばれるカバーのような部分が傷つくことで、神経の情報伝達が乱れ、さまざまな症状が現れます。
原因は完全に解明されていませんが、遺伝的素因と環境要因が複合的に関与すると考えられています。遺伝的素因というのは体質的な「MSのなりやすさ」のことで、環境要因には紫外線、ビタミンD不足、ウイルス感染などが挙げられています。
特に エプスタイン・バーウイルス(EBV) 感染が強いリスク因子として注目されていて、2022年に発表された大規模研究(Science誌)では、EBV感染によりMSの発症リスクが32倍に上昇することが示されました。特に青年期以降のEBV感染がMSの重要な引き金の一つであることが強く支持されています。
ただ、どうしてMSが発症するのかはまだ完全にわかっていません。決して「自分のせい」ではありません。
2. 多発性硬化症(MS)の好発年齢・人種差・男女比
MSは20〜40歳代に発症のピークを迎えます。患者数は増加傾向にあり、女性が男性より2〜3倍多いのが特徴です。
世界的には欧米の白人集団で多い傾向がありますが、日本人を含むアジア人でも決して稀ではありません。日本でも患者数は年々増えており、「自分だけが特別」ではないことを知ってほしいと思います。
若い世代で発症しやすいため、人生の大事な時期に直面する壁は大きいですが、適切な治療で病気の進行を抑え、仕事や日常生活を守れる時代になっています。
3. 多発性硬化症(MS)の主な症状
MSの症状は人により大きく異なり、神経のどこが攻撃されるかによって変わります。代表的なものは以下の通りです。
- 視力障害:視力低下や視野異常
- 感覚障害:しびれ、ピリピリ感、触った感覚がにぶい
- 運動障害:歩行の不安定さ、手の使いにくさ、筋力低下
- 疲労:日常生活に大きな影響を与える「MS疲労」
- その他:痛み、排尿・排便障害、認知機能の低下、うつ症状など
特に「見えない症状」(疲労、認知機能低下、痛みなど)は、元気そうに見えるため周囲に理解されにくい点が、患者さんの大きな苦痛となっています。
→もっと詳しく:MSの主な症状一覧
4. 若い世代特有のつらさと「理解されにくさ」
20〜40歳代で発症するMSは、就職、恋愛や結婚、子育てといった人生の節目と重なるため、独特のつらさがあります。元気そうに見えるため、「頑張れば治るでしょ」「気持ちの問題では?」と誤解されやすく、職場や友人・家族との関係で孤独を感じる方が多いのです。SNSでは「説明しづらくてフラストレーションが溜まる」「仕事への影響が不安」「妊娠出産の葛藤で悩む」といった声が寄せられています。
しかし、「合理的配慮※」を活用して仕事を継続している人もいます。恋愛や結婚、子育てにおいても、パートナーや家族とのオープンな対話が鍵となります。
MSは「終わり」ではなく「新たな始まり」。同じ世代の先輩患者さんたちの体験談は、大きな希望になります。
※合理的配慮:障害や病気のある人が働くときに、職場が必要に応じておこなう調整や配慮のこと
5. 多発性硬化症(MS)の診断のポイント
診断には、国際的にマクドナルド診断基準が用いられています。MRI検査によって、病変が脳・脊髄・視神経のあちこちにできていることを確認することなどで、早期診断が可能になります。
しかしMSの診断は難しいこともあり、原因不明の症状で複数の医療機関を回る長い道のりになるケースも少なくありません。
そこで2024年に診断基準が改訂されました(※)。検査所見がより詳細になり、MSを正確により早く診断できるように工夫されています。この改訂で早期診断が進み、治療開始のタイミングが早まることが大きく期待されています。
※指定難病の診断には2017年のマクドナルド診断基準に沿った診断基準が用いられています。
→もっと詳しく:MSの検査と診断
6. 多発性硬化症(MS)の経過・予後・再発と症状変動
MSの経過は人によってさまざまですが、発症時は約8割の方が 再発寛解型(RRMS:Relapsing-Remitting MS) だといわれています。このタイプは、再発(急性に症状が悪化する時期)と落ち着いたように見える時期(寛解期)を繰り返すのが特徴です。一部の方は、時間が経つと症状が徐々に進行する二次性進行型(SPMS:Secondary Progressive MS) に移行したり、最初から症状が徐々に進行する 一次性進行型(PPMS:Primary Progressive MS) として発症したりします。最近ではこれらをまとめて 進行型MS(PMS:Progressive MS) と呼ぶことも増えています。
なお近年の研究では、MSは「再発」と「進行」が同時に存在する病気だという考え方が広がっています。詳しくは「PIRA(再発とは無関係の進行)〜MSの最新の考え方」をご覧ください。
症状は体調や気候の影響を受けて変動することがあります。中でも体温が上がると一時的に症状が強くなる現象は「ウートフ現象」と呼ばれ、多くの患者さんを悩ませています。そのため周囲には「昨日は元気だったのに」「さっきまで動けてたのに」と、まるで仮病のように見えるかもしれません。でも、この症状の変動は患者さん自身が一番つらい思いをしているということを、ぜひ知ってほしいと思います。
予後は個人差が大きいですが、早期診断と効果の高い治療薬(疾患修飾薬:DMD)により、多くの方が自立した生活を送っています。進行を抑える薬も進化しています。希望を持って主治医と相談しながら向き合っていきましょう。
7. 急性期治療と疾患修飾薬(DMD)
再発時はステロイドパルス療法※(短期間に大量のステロイドを点滴する治療)で急性炎症を抑えます。
長期的に病気の経過をゆるやかにする薬を 疾患修飾薬(DMD:Disease-Modifying Drug) といいます。現在のMS治療の中心です。日本ではケシンプタ®(オファツムマブ)、タイサブリ®(ナタリズマブ)、テクフィデラ®(フマル酸ジメチル)など 8つのDMD が承認されており、患者さんに合った治療が選べる時代です。効果の高いDMDを早期に導入することで、進行を遅らせると考えられています。
※正式名称は「メチルプレドニゾロン大量静注療法」
→もっと詳しく:MSの治療薬一覧
8. 期待されている治療と未来
2026年現在、国際的に BTK阻害薬 という新しいタイプの薬の治験が進んでいます。中でも フェネブルチニブ が再発抑制と進行抑制で優れた結果を示しており、日本でも治験中です。BTK阻害薬は進行型MSへの希望も広がっています(詳しくは「PIRA(再発とは無関係の進行)〜MSの最新の考え方」をご覧ください)。
幹細胞治療や次世代免疫療法、EBウイルスワクチンも研究段階で、将来の選択肢として期待されます。MSは「うまく付き合いながら生きていける病気」に近づきつつあります。一緒に未来を信じましょう。
→もっと詳しく:現在日本で行われている治験
9. 日常生活の注意点と工夫
MSとうまく付き合っていくにあたって、日常生活で工夫できることがあります。
- 疲労管理:無理をせず計画的な休息をとるなど、活動と休憩のバランスを意識
- 暑さ対策(ウートフ現象):冷却グッズ、冷房の活用
- 職場・学校での合理的配慮:時短勤務、フレックスタイム、障害者雇用枠の活用など周囲の理解と制度を活用して負担を減らす工夫
- メンタルケア:一人で抱え込まないことが大切です。カウンセリング、患者会参加※、趣味や小さな達成感の積み重ねも重要です
- 人間関係:家族・友人に「MSとは」をわかりやすく伝える工夫(MSキャビンなどの資料活用)
「工夫次第で普通の生活が送れる」と言う方も増えています。
※患者会
・多発性硬化症視神経脊髄炎友の会
・患者交流会 M-N Smile
10. 多発性硬化症(MS)と妊娠・出産
若い女性に多いMSでは、妊娠・出産は人生の大きなテーマです。「MSだから妊娠を諦めなければならない」ということは決してありません。多くのDMDは妊娠・授乳中も調整可能ですが、治療を一時中断・変更するケースもあることから、主治医と十分に相談してください。
計画的な妊娠により、母子ともに健康的な出産が可能です。実際、多くの患者さんが子育てをしながら充実した生活を送っています。希望を失わず、主治医に相談してください。
→もっと詳しく:MSの妊娠・出産
11. 利用できる支援・制度
日本ではMSは難病に指定されており、以下の支援が受けられます。
- 難病医療費助成制度:一定の条件を満たせば、医療費の自己負担額に1カ月あたりの上限(所得に応じて0〜3万円)が設けられます。対象となる条件など、詳しくは「指定難病医療費助成」をご覧ください。
- 指定難病登録者証:医療費助成対象外でも発行可能で、各種支援の証明に
- 障害者手帳:身体障害者手帳(4級程度が多い)で税制優遇、就労支援、交通割引など
- 就労支援:ハローワークの障害者雇用、企業への合理的配慮要請
詳細は主治医や自治体の窓口で確認してください。経済的・社会的負担を軽減できる環境が整いつつあります。
12. おわりに ~「My MS Diagnosis(一人ひとりのMS診断)」から希望へ
2026年5月30日の World MS Day(世界多発性硬化症の日) は、3年目となる「My MS Diagnosis(一人ひとりのMS診断)」キャンペーンとして、世界中で「診断」をテーマに啓発活動が展開されています。「navigating MS together(MSをともに歩む)」という思いを胸に、診断の道のりを、みんなで切り開いていこうというメッセージを届けています。
患者さんへ。あなたは一人ではありません。医療の進歩、周囲の理解、自身の工夫で、MSと上手に付き合いながら、充実した人生を一緒に描いていきましょう。
家族・社会の皆さんへ。MSは「見えない」からこそ、温かい理解と配慮が大きな力になります。
私たちはMSとともに生きる全ての人を応援しています。
参考:
- MS International Federation、最新研究論文など
- MSIF「World MS Day 2026」
関連ページ:
- 大橋高志(脳神経内科医・鎌ケ谷総合病院)
- 越智博文(脳神経内科医・愛媛大学大学院)
- 木村公俊(脳神経内科医・京都大学医学部附属病院)
- 近藤誉之(脳神経内科医・関西医科大学総合医療センター)
- 千原典夫(脳神経内科医・神戸大学医学部附属病院)
- 富沢雄二(脳神経内科医・順天堂大学医学部附属順天堂医院)
- 中島一郎(脳神経内科医・東北医科薬科大学)
- 新野正明(脳神経内科医・北海道医療センター)
- 宮本勝一(脳神経内科医・和歌山県立医科大学)
- 横山和正(脳神経内科医・東静脳神経センター)
- 渡邉 充(脳神経内科医・九州大学病院)
当法人では、正確な情報をより早く必要とする方へお届けするため、国際的な医学雑誌の指針(ICMJEなど)に従い、生成AIを補助的に活用しています。
本記事は、以下の生成AIを活用しながら作成・編集しました。各AIは2026年5月時点で利用可能なバージョン・モデル・機能を活用し、その仕様に基づいています。
- Claude Opus 4.7[Anthropic]:記事構造整理、文章推敲・整文
- Grok 4.3 (beta)[xAI]:論文検索、文章草案・検証
2026年05月30日(新規公開)
監修:MSキャビン編集委員
出典:MSキャビン「多発性硬化症(MS)とは?症状・原因・治療・支援制度を解説」
URL:https://www.mscabin.org/ms/what-is-ms/
(新規公開:2026年5月30日)






