多発性硬化症(MS)

ベタフェロン®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返しながら、症状が徐々に悪化する進行期に入ります。

進行期に入るまでの期間は人によりますが、病巣ができるのを抑え、症状が徐々に悪化する進行期に入らないようにしておくことが必要です。そのために使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。経過を改善するという意味合いで「疾患修飾薬(disease-modifying drug : DMD)」と呼ばれます。

日本では2024年3月現在、8種類のDMDが承認されています。インターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン®)について解説しています。2日に1回の皮下注射薬です。日本で2000年に承認されました。

更新:
2024年3月11日(全体を改訂)
2022年4月27日(全体を改訂)
2001年5月(新規公開)
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

ベタフェロン®(インターフェロン・ベータ1b)は、人間の体内で分泌されているタンパク質「インターフェロン・ベータ」を、遺伝子組み換え技術を用いて薬にしたものです。

ベタフェロン®による治療は、アボネックス®とコパキソン®とまとめて「ABC療法」と呼ばれることがあります。

ベタフェロン®は2日に1回の皮下注射薬です。本人または家族などが、お腹、太もも、腕、お尻などの柔らかい部位に注射します。

国内外の臨床試験では、MSの再発回数を減らしたり、再発した時の症状を軽くしたりする効果が示されています。またMRI検査で確認できる病巣の拡大や新しい病巣の出現を減らす作用もあります。

海外の臨床試験ではMSの障害度の進行を抑制したことが報告されていて、日本におけるベタフェロン®の効能は「MSの再発予防及び進行抑制」となっています。

ただ実際には進行している人に対してはベタフェロン®よりも有効性が高い薬が使われることがほとんどです。

ベタフェロン®を使ってもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

特に入院は必要とされていません。注射の仕方や副作用の管理について、主治医や看護師さん、薬剤師さんから十分に説明を受けてください。

使用期間は決められていません。ベタフェロン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けた方がいいといえます。

ベタフェロン®ははMSの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば難病として医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

ベタフェロン®によくある副作用は、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛、悪寒などの「インフルエンザ様症状」です。治療を始めたばかりの頃によく出ます。

その他リンパ球数の減少や肝機能障害、注射をした部位が赤くなったり痛くなったりする注射部位反応、抑うつ状態が見られることがあります。

インフルエンザ様症状に対しては、少ない量から治療を始めて徐々に増やしていく「漸増法」が行われます。こうすることでベタフェロン®が無理なく体に慣れていくことが多いです。

また注射の前後に解熱鎮痛剤を服用します。解熱鎮痛剤は服用のタイミングが重要なので、いつ飲めば良いか主治医とご相談ください。

インフルエンザ様症状の多くは、時間の経過時間の経過と共になくなっていきますが、症状が軽減しない場合は、ベタフェロン®の量を減らす、あるいは別の薬に変えることが検討されます。

リンパ球の減少・肝機能障害に関しては、自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。

注射部位反応に対しては、注射手技を再確認し、注射部位のローテーションを確実にするなどしてください。

注射部位・注射時間・保管の仕方

2日に1回、本人または家族などが、お腹、太もも、腕、お尻などの柔らかい部位に注射します。注射部位反応を防ぐため、毎回、部位を変えます。

針は30ゲージというサイズでとても細く、注射の深さは、筋肉に到達しない皮下の部分です。

打つ時間に決まりはありません。寝ている間に副作用が出終わってしまうように、就寝前の注射が勧められていますが、就寝前でなくても構いません。

注射部位の保護ため、また副作用のインフルエンザ様症状を予防するためにも、注射直後の入浴はお勧めできません。多くの人は、入浴後少し経った就寝前に注射をしています。

気付いた日に注射してください。その後はその日を起点に2日に1回、注射します。

ベタフェロン®は常温保存できます。

しかし30度以上あるいは氷点下になると薬剤が変性する可能性があるため、真夏で室内が30度を超えるようであれば冷蔵庫に保管します。一方、寒い地域では凍結しないよう、冬場は冷蔵庫に入れた方が良いこともあります。冷蔵庫に入れた場合は、必ず常温に戻してから注射してください。注射部位反応が強く出る恐れがあります。

ベタフェロン®は空港のX線検査を通過できます。貨物室の環境を考え、手荷物で機内に持ち込むようにしてください。

飛行機は原則「注射針は、機内で使用することがなければ持ち込み禁止」とされています。しかし現状として国内の場合、手荷物検査の際に針を持参していることを伝えれば、問題ないようです。 航空会社(日本航空、全日空)では、注射器を機内に持ち込む場合は、予約の時点で伝えておくことを勧めています。

海外旅行に行く際は、英文の診断書と薬剤証明書を携帯することをお勧めします。早めに主治医に相談してください。

他の治療・予防接種について

ベタフェロン®は漢方薬の小柴胡湯とは併用できません。機序は分かりませんが、間質性肺炎を起こす可能性があります。また、他のMS疾患修飾薬とは併用できません。

ベタフェロン®の治療中でもワクチンは受けられます。コロナワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。ワクチンの副反応で具合が悪い場合は、注射日をずらしても構いません。

ステロイド薬とベタフェロン®の併用は禁止されていません。

実際には、ステロイドパルス療法中もベタフェロン®を継続する人、あるいはステロイドパルス中はベタフェロン®を休む人、どちらもいます。決まりはありません。

生活への影響

注射自体は徐々に生活の一部として慣れてきます。しかし治療開始初期では特に副作用が多く出現し、中でもインフルエンザ様症状が強い場合は、生活のリズムが変化してしまうかもしれません。

ベタフェロン®の治療により生活に支障を来している場合は、主治医に伝えてください。副作用の対処法、あるいは他の薬への切り替えを検討してくれます。

続けられます。ただ、初期のうちはインフルエンザ様症状が出ることが多いかもしれません。

注射部位に感染を起こすリスクがあるため、注射直後にプールや温泉に入ることはお勧めできません。注射後数時間が経過している場合は制限ありません。

注射したくない気持ちが強く、負担になっている場合は、我慢しないで主治医にご相談ください。別の薬に変えることを検討してくれます。

効いているのでしょうか?

ベタフェロン®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし、再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はベタフェロン®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別の再発予防薬からベタフェロン®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていた薬の効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する前薬の「リバウンド」の可能性もあります。

妊娠・出産

海外の臨床試験で、母子への有害事象が高くならないことが証明されました。ベタフェロン®は妊娠中も継続可能です。

添付文書には「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ベタフェロン®治療中の授乳は可能です。