多発性硬化症(MS)

ベタフェロン®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返した後に徐々に症状が進行していきます。再発の回数を減らし、進行期に入らないようにすることが必要で、この目的で使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。これらの薬を「疾患修飾薬(disease-modifying drug; DMD)」といいます。

DMDは再発回数を減らし、MRIの病巣が増えないようにします。DMDを使うことで残される障害が減り、進行期に入るのを遅らせることが期待できます。

日本では2021年11月現在、8種類のDMDが承認されています。ここではインターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン®)について解説しています。2日に1回の皮下注射薬です。日本で2000年に発売されました。

新規公開:2001年5月  更新:2022年4月27日
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

ベタフェロン®(インターフェロン・ベータ1b)は、人間の体内で分泌されているタンパク質「インターフェロン・ベータ」を、遺伝子組み換え技術を用いて薬にしたものです。

ベタフェロン®による治療は、アボネックス®とコパキソン®とまとめて「ABC療法」と呼ばれることがあります。

ベタフェロン®は2日に1回の皮下注射薬です。本人または家族などが、お腹、太もも、腕、お尻などのやわらかい部位に注射します。

国内外の臨床試験では、MSの再発回数を減らしたり、再発した時の症状を軽くしたりする効果が示されています。またMRI検査で確認できる病巣の拡大や新しい病巣の出現を減らす作用もあります。

海外の臨床試験ではMSの障害度の進行を抑制したことが報告されていて、日本におけるベタフェロン®の効能は「MSの再発予防及び進行抑制」となっています。

ただ実際には進行している人に対してはベタフェロン®よりも効果が高い薬が使われることがほとんどです。

ベタフェロン®を使ってもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

薬剤の調整や注射手技を正確に習得するため、治療を始める時はしっかり指導を受ける必要があります。また治療を始めたばかりの頃は特に、発熱、頭痛、倦怠感などの症状が出ることが多いです。

このことから入院が勧められることがありますが、外来で導入することも十分に可能です。主治医にお尋ねください。

使用期間は決められていません。ベタフェロン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けたほうがよいといえます。

ベタフェロン®ははMSの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば難病として医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

ベタフェロン®によくある副作用は、発熱、頭痛、倦怠感、関節痛、悪寒などの「インフルエンザ様よう症状」と呼ばれる症状です。治療を始めたばかりの頃によく出ます。

そのほかリンパ球の減少や肝機能障害、注射をした部位が赤くなったり痛くなったりする注射部位反応、抑うつ状態がみられることがあります。

インフルエンザ様症状に対しては、少ない量から治療を始めて徐々に増やしていく「漸増法」がとられます。こうすることでベタフェロン®が無理なく体に慣れていくことが多いです。

また注射の前後に解熱鎮痛剤を服用します。解熱鎮痛剤は服用のタイミングが重要なので、いつ飲めば良いか主治医とご相談ください。

インフルエンザ様症状の多くは、時間の経過とともになくなっていきます。症状が軽減しない場合はベタフェロン®の量を減らす場合もありますが、他のDMDへの変更も検討してください。

リンパ球の減少・肝機能障害に関しては、自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。

注射部位反応に対しては、注射手技を再確認し、注射部位のローテーションを確実にするなどしてください。

同じ部位に注射を繰り返すと、その部分がだんだん痛くなってきます。注射部位のローテーションを心がけてください。

また冬場になると痛みが増す人がいます。薬液が冷たいと痛みが増強する可能性があり、注射器を握って温めてから注射すると良いかもしれません。

注射前に深呼吸を数回し、息を吐く時に合わせて針を刺し、次に吐く時に合わせてピストンを押すことも勧められています。

他の治療・予防接種について

ベタフェロン®は、他のMS疾患修飾薬とは併用できません。

また、ベタフェロン®は漢方薬の「小柴胡湯」とは併用できません。ほかのインターフェロン製剤で、小柴胡湯との併用により間質性肺炎を発症した報告があるからです。小柴胡湯のどの成分が原因なのかは不明です。

そのほか併用を注意すべき薬剤として、抗てんかん薬、アンチピリン(解熱鎮痛剤)、ワルファリン(抗凝固薬)、テオフィリン(喘息治療薬)などがあります。ベタフェロン®と併用するとこれらの薬剤の作用が強くなることがあります。市販薬については主治医や薬剤師に相談してください。

ベタフェロン®の治療中でもワクチンは受けられます。コロナワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。コロナワクチンの副反応で具合が悪い場合は、注射日をずらしても構いません。

ステロイド薬とベタフェロン®の併用は禁止されていません。

実際には、ステロイドパルス療法中もベタフェロン®を継続する人、あるいはステロイドパルス中はベタフェロン®を休む人、どちらもいます。決まりはありません。

生活への影響

注射自体は徐々に生活の一部として慣れてきます。しかし治療開始初期では特に副作用が多く出現し、中でもインフルエンザ様症状が強い場合は、生活のリズムが変化してしまうかもしれません。副作用の程度は個々の患者さんで違っていて、生活リズムに支障を来すほどの人もいれば、全く問題ない人もいます。

生活に大きく支障を来している場合は、主治医に伝えてください。副作用の対処法、あるいは他の薬への切り替えを検討してくれます。

続けられます。ただ、初期のうちはインフルエンザ様症状が出ることが多いかもしれません。

注射部位に感染を起こすリスクがあるため、注射直後にプールや温泉に入ることはお勧めできません。注射後数時間が経過している場合は制限ありません。

注射したくない気持ちが強く、ベタフェロン®自体が大きな負担になっている場合は、我慢しないで主治医にご相談ください。別の薬に替えることを検討してくれます。

妊娠・出産

ベタフェロン®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。ただし、妊娠中は赤ちゃんの低体重・流産の可能性があるため、ベタフェロン®を使えません。

妊娠に気づいたらその日のうちにベタフェロン®を中止し、主治医に報告してください。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開がすすめられています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

薬剤が母乳を介して乳児に移行する可能性があります。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。

効いているのでしょうか?

ベタフェロン®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし治療を続けていても再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はベタフェロン®が合っていないか、視神経脊髄炎など他の疾患かもしれず、治療の見直しが必要になってきます。

別の再発予防薬からベタフェロン®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていた薬の効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する前薬の「リバウンド」の可能性もあります。

注射部位・注射時間・保管の仕方

2日に1回、本人または家族などが、お腹、太もも、腕、お尻などのやわらかい部位に注射します。注射部位反応を防ぐため、毎回、部位を変えます。

針は30ゲージというサイズでとても細く、注射の深さは、筋肉に到達しない皮下の部分です。

打つ時間に決まりはありません。寝ている間に副作用が出終わってしまうように、就寝前の注射が勧められていますが、就寝前でなくても構いません。

注射部位の保護ため、また副作用のインフルエンザ様症状を予防するためにも、注射直後の入浴はおすすめできません。多くの人は、入浴後少し経った就寝前に注射をしています。

注射直後に入浴する際は、注射部位をゴシゴシこすらないようにしてください。翌日以降の入浴では、通常通りに洗っても問題ありません。

気付いた日に注射してください。その後はその日を起点に2日に1回、注射します。

ベタフェロン®は常温保存できます。

しかし30度以上あるいは氷点下になると薬剤が変性する可能性があるため、真夏で室内が30度を超えるようであれば冷蔵庫に保管します。一方、寒い地域では凍結しないよう、冬場は冷蔵庫に入れたほうが良いこともあります。冷蔵庫に入れた場合は、必ず常温に戻してから注射してください。注射部位反応が強く出る恐れがあります。

真夏に長時間持ち歩く時は、温度が上がりすぎないように少し気を遣ってください(薬局から自宅に持ち帰る程度なら気にしなくて大丈夫です)。

ベタフェロン®は空港のX線検査を通過できます。貨物室の環境を考え、手荷物で機内に持ち込むようにしてください。

飛行機は原則「注射針は、機内で使用することがなければ持ち込み禁止」とされています。しかし現状として国内の場合、手荷物検査の際に針を持参していることを伝えれば、問題ないようです。 航空会社(日本航空、全日空)では、注射器を機内に持ち込む場合は、予約の時点で伝えておくことをすすめています。

海外旅行に行く際は、英文の診断書と薬剤証明書を携帯することをおすすめします。早めに主治医に相談してください。