多発性硬化症(MS)

コパキソン®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返した後に徐々に症状が進行していきます。再発の回数を減らし、進行期に入らないようにすることが必要で、この目的で使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。これらの薬を「疾患修飾薬(disease-modifying drug; DMD)」といいます。

DMDは再発回数を減らし、MRIの病巣が増えないようにします。DMDを使うことで残される障害が減り、進行期に入るのを遅らせることが期待できます。

日本では2021年11月現在、8種類のDMDが承認されています。ここではグラチラマー酢酸塩(コパキソン®)について解説しています。1日に1回の皮下注射薬です。日本で2015年に発売されました。

新規公開:2016年5月27日  更新:2022年4月27日
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なことを教えてください。

MSは中枢神経系の軸索を覆うミエリンが攻撃されてしまう病気ですが、そのミエリンはいくつかの成分で構成されています。

中でも「ミエリン塩基性タンパク」に注目して開発が始められたのがグラチラマー酢酸塩(コパキソン®)です。ミエリン塩基性タンパクを解析し4つのアミノ酸をランダムに配列して人工的に作ったペプチド製剤です。

コパキソン®による治療は、アボネックス®とベタフェロン®とまとめて「ABC療法」と呼ばれることがあります。

毎日、本人または家族などが、お腹、脇腹、腕、太もものやわらかい部位に注射します。注射は「オートジェクト2®」という専用の補助器具を使います。

国内外の臨床試験では、MSの再発回数を減らしたり、再発した時の症状を軽くしたりする効果が示されています。またMRI検査で確認できる病巣の拡大や新しい病巣の出現を減らす作用もあります。

進行抑制に対するデータはほとんどありません。日本におけるコパキソン®の効能は「多発性硬化症の再発予防」です。

コパキソン®を使ってもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

薬剤の調整や注射手技を正確に習得するため、治療を始める時はしっかり指導を受ける必要があります。コパキソン®は外来で導入することが可能です。

使用期間は決められていません。コパキソン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けたほうが良いといえます。

コパキソン®はMSの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば難病として医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

主な副作用は、以下の通りです。
・注射部位反応:注射部位の発赤・痛み・かゆみなど
・注射直後反応:注射後数分以内に起こる顔面紅潮、胸痛、息苦しさ、動悸・頻脈など
・過敏性反応:発赤・じんましん・喉のかゆみ・けいれん・失神など
・長期使用による皮下脂肪萎縮

注射部位反応に対しては、注射手技を再確認し、注射部位を毎回変えるなどして対処します。また注射したところをもんだりこすったりしないでください。販売会社が提供している保温・保冷パックを使用することで、注射部位反応が軽快することもあります。

注射直後反応の多くは一時的で軽いです。対処として注射頻度を2〜3回/週にして、徐々に頻度を増やしていく方法があります。それでも続く場合は改めて主治医に相談してください。

過敏性反応は頻度は低いですが、これが起こった場合は次の注射は打たずに主治医に連絡してください。

ダイアリーを活用し、あちこちに注射するようにしてください。注射前に深呼吸を数回し、息を吐く時に合わせて注射してみるのも1つの方法です。

針の深さを変えてみたり痛み止めを飲んでみたりするのも対処のひとつです。主治医にご相談ください。

また、薬液が室温に戻っているかを確認してください。冷たいまま注射すると、注射部位反応が強く出る恐れや、痛みが増強する可能性があります。

注射部位・注射時間・保管の仕方

1日に1回、本人または家族などが、お腹、脇腹、腕、太もものやわらかい部位に注射します。注射部位反応を防ぐため、毎回、部位を変えます。

針は29ゲージというサイズで細く、注射の深さは、筋肉に到達しない皮下の部分です。

打つ時間に決まりはありません。

注射部位の保護のため、注射直後の入浴はお勧めできません。多くの人は、入浴後少し経った就寝前に注射をしています。

注射直後に入浴する際は、注射部位をゴシゴシこすらないようにしてください。翌日以降の入浴では、通常通りに洗っても問題ありません。

コパキソン®は2〜8℃の冷蔵保存が勧められているため、箱に入れたまま凍らないように冷蔵庫に入れます。注射の際は室温に戻すため、注射の20~30分前には冷蔵庫から出しておきます。冷たいまま注射すると注射部位反応が強く出る恐れがあります。

保冷剤や携帯用保冷バッグを利用し、現地に到着したらなるべく早く冷蔵庫に入れてください。

コパキソン®は空港のX線検査を通過できます。貨物室の環境を考え、手荷物で機内に持ち込むようにしてください。

飛行機は原則「注射針は、機内で使用することがなければ持ち込み禁止」とされています。しかし現状として国内の場合、手荷物検査の際に針を持参していることを伝えれば、問題ないようです。 航空会社(日本航空、全日空)では、注射器を機内に持ち込む場合は、予約の時点で伝えておくことをすすめています。

海外旅行に行く際は、英文の診断書と薬剤証明書を携帯することをおすすめします。早めに主治医に相談してください。

他の治療・予防接種について

コパキソン®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。他に併用が禁止されている薬剤はありません。

コパキソン®の治療中でもワクチンは受けられます。コロナワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。ただ、時に強い皮膚症状が出ることがありますので注意してください。

ステロイド薬とコパキソン®の併用は禁止されていません。

実際には、ステロイドパルス中はコパキソン®を休む人、ステロイドパルス療法中もコパキソン®を継続する人と、どちらもいます。決まりはありません。

生活への影響

コパキソン®は副作用が少ないといわれているため、この薬を始めて生活リズムが変わることは考えにくいです。

続けられます。

注射部位に感染を起こすリスクがあるため、注射直後にプールや温泉に入ることはお勧めできません。注射後数時間が経過している場合は制限ありません。

注射したくない気持ちが強く大きな負担になっている場合は、我慢しないで主治医にご相談ください。別の薬に替えることを検討してくれます。

効いているのでしょうか?

コパキソン®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし、再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はコパキソン®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別の再発予防薬からコパキソン®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていた薬の効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する前薬の「リバウンド」の可能性もあります。

妊娠・出産

コパキソン®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。コパキソン®は他のMS再発予防薬と比べて、妊婦への安全性が高いといわれています。添付文書にも「治療しないことによるリスクのほうが大きいのであれば、妊娠中の使用はやむを得ない」といったことが書かれています。妊娠中もコパキソン®を使用するどうかは個別に判断することになります。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開がすすめられています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

添付文書には「授乳中の婦人に投与することを避けること。やむを得ず投与する際には授乳を中止させること」と書かれています。