視神経脊髄炎(NMOSD)

ソリリス®

視神経脊髄炎(NMOSD)は何も治療をしていないと再発を繰り返す病気です。しかも1回の再発が大きく、1回の再発で失明したり車椅子生活になったりすることもあります。そのためNMOSDでは診断されたらすぐに再発予防治療を始めます。

これまではステロイド薬と免疫抑制薬が治療の中心でしたが、2019年以降、有効な薬が新しく4製剤承認されました。そのうちここではエクリズマブ(ソリリス®)について解説しています。モノクローナル抗体製剤で、2週間に1回の点滴薬です。日本では2019年に承認されました。

新規公開:2022年4月27日
協力:株式会社くすりんく
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

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全体的なこと

NMOSDは免疫系に何らかの異常が起こり、自分に対する抗体(自己抗体)が、アストロサイトの「アクアポリン4(AQP4)」という、水を細胞に出し入れする通路を形作るタンパク質を攻撃してしまうことによって起こります。

AQP4がアストロサイトを攻撃する際には「補体」と呼ばれるタンパク質が活性化することが分かっています。ソリリスはこの補体の成分の1つ「C5」に結合することで、その活性化を阻害します。そうすることでNMOSDの再発を抑えることができると考えられています。

治療を始める時は週1回の間隔で合計4回、その後は2週間に1回の間隔で治療を受けます。

2022年4月から、入院中にソリリス®を使用した場合、ソリリス®にかかる治療費が入院費に包括されることになりました。高いお薬なので、多くの施設では入院中にソリリス®を使用することが難しくなります。入院でのソリリス®の使用が可能かどうかは主治医に確認ください。

使用期間は決められていません。ソリリス®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けたほうがよいといえます。

ソリリス®の治験では、AQP4抗体陽性患者さんの再発リスクを偽薬との比較で 94.2%低下させました(併用薬あり)。また、年間再発率を0.016まで低下させました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。参考として血液中の補体の量は、治療開始4日後には低くなることが分かっています。

ソリリス®を使用してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

日本人の約3.5%(29人に1人)の割合で、でソリリス®が補体に結合しない遺伝子を持つ人がいることが分かっています。この遺伝子があるとソリリス®が全く効きません。従って、ソリリス開始前に、そのような遺伝子があるかどうかを検査することが望ましいと考えられます。一方で、ソリリス®の投与を急ぐ時は投与後、補体の活性化が阻害されたことを血液検査で確認する場合もあります。

ソリリス®は、製造工程でウシ血清アルブミンを使用しています。伝達性海綿状脳症(狂牛病)のリスクを完全に排除できないので、この薬による治療の必要性を十分に理解できるまで説明を受けてください。

ソリリス®の治験では、AQP4抗体陰性の患者さんは除外されています。添付文書には、「本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。

小児を対象とした治験は行われておらず安全性が確立されていません。

小児では、髄膜炎菌だけではなく、肺炎球菌、インフルエンザ菌b型等の細菌による髄膜炎を起こす可能性があります。治療開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチン、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザ菌b型ワクチンを接種することが推奨されます。

ソリリス®は1回の点滴が2,479,336円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

副作用として最も懸念されるのは髄膜炎菌感染症です。その他、播種性淋菌感染症、肺炎球菌感染症、インフルエンザ菌感染症※などの重篤な感染症、注射時副反応なども報告されています。
※「インフルエンザ菌感染症」とは、細菌による感染症です。ウイルスによって起こる季節性のインフルエンザとは全く異なります。

注射時副反応はアレルギー反応や頭痛、ショック、アナフィラキシーなどで、点滴を始めてすぐに起こることが多いです。

髄膜炎菌は重度の髄膜炎や敗血症を引き起こす細菌で、髄膜炎菌感染症はソリリス®の副作用の中で最も懸念される重篤な副作用です。発熱や風邪のような症状で発症した後に急激に悪化して1日で死に至ることがあります。

そのためソリリス®の投与を受ける場合は、治療開始2週間前までに必ず髄膜炎菌に対するワクチンを接種することになっています。免疫抑制作用を有する薬剤 (ステロイド薬、アザチオプリン等) を使用している場合には、8週以上間隔を空けて2回接種することが推奨されています。

なお、髄膜炎菌ワクチンには、4価の髄膜炎菌ワクチン (MenACWY) と血清群B (MenB) ワクチンの2種類があり、両方の接種が推奨されていますが、日本で認可されているのはMenACWYワクチンだけです。MenBワクチンは一部のトラベルクリニックなどで自費で接種できます。米国疾病対策予防センターでは「MenACWYワクチンとMenBワクチンの両方を接種しておくこと。ソリリス®で治療中は予防的に抗菌薬を内服することを考慮すること」としています。またワクチンはその後も5年毎に接種することがすすめられています。しかしワクチンを接種していても感染する可能性は残り、注意が必要です。

髄膜炎菌感染症が疑われる症状は、発熱、頭痛、吐き気・嘔吐、筋肉の痛みなどです。そのほか、うなじのこわばり、発疹、光が異常にまぶしく感じる、手足の痛み、混乱して考えがまとまらない、などの症状にも注意が必要です。風邪やインフルエンザと区別がつきにくいですが、これらの症状が現れたら直ちに主治医または緊急時受診可能医療機関に連絡してください。主治医または緊急時受診可能医療機関と連絡が取れない場合、すぐに救急車を呼び、患者安全性カードを救急救命室のスタッフに提示してください。

淋菌感染症は、多くの場合は無症状ですが、排尿時の痛み、陰茎先端部からの膿様分泌物、膣分泌物の増加および腹部/骨盤部の痛みなどの症状がみられることがあります。播種性淋菌感染症による全身感染をきたし、髄膜炎や心内外膜炎を合併することもあります。

風邪症状のほか、原因不明の発熱や一般的な風邪とは異なる症状など気になる症状が現れた場合は、診察を受けてください。

注射時副反応に対しては、出現した場合は投与速度を遅くする、抗ヒスタミン剤やステロイド薬を投与するなどが推奨されています。また点滴終了後は一定時間、病院内での経過観察が求められます。

他の治療・予防接種について

ソリリス®の治験では、ステロイドや免疫抑制薬を併用している患者さんも組み込まれており、併用可能とされています。

ソリリス®は免疫グロブリン製剤との併用で効果が減弱することから、添付文書には併用注意と記載されています。その他の薬剤については禁止されていません。

NMOSD患者さんの多くはステロイド薬や免疫抑制薬のほか、対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。

ソリリス®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、ステロイドパルス療法や血漿浄化療法を行うことがあります。抗体は血漿交換で除去されるので次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

ソリリス®の治療中でもワクチンは受けられます。ステロイド薬や免疫抑制薬を併用していなければ生ワクチンも可能です。生ワクチンでないインフルエンザワクチンや新型コロナワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。

日常生活

ソリリス®は治療を始めて最初の1カ月間は毎週、その後は2週間に1回、通院して点滴を受ける必要があります。通院頻度が増えることで生活に影響を受けることがあるかもしれません。

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

ソリリス®の血中濃度が低下すると再発の恐れがあるので、投与間隔を遵守してください。予定日に受診できないことが分かった場合は、速やかに主治医に連絡してください。

髄膜炎菌感染は現在、国内ではコロナ対策で激減していますが、世界の国々では感染リスクが高いと思われる国々も多いため、その点にもご留意ください。

妊娠・出産

ソリリス®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。

妊娠中に淋菌に感染すると、早産や流産を起こすことがあります。 出産中に新生児に産道感染して、結膜炎や関節、血液の炎症を起こし、命にかかわる場合もあります。妊娠中も継続するかは主治医とご相談ください。

添付文書では「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とあり、患者さんそれぞれの状況と主治医の判断によるようです。

ソリリス®のヒトにおける乳汁移行性については不明ですが、免疫グロブリンはヒトの乳汁に移行することが知られているため、ソリリス®が乳汁に分泌される可能性は否定されていません。

ただ、ソリリス®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響は与えないとの見解もあります。