多発性硬化症(MS)

ケシンプタ®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返した後に徐々に症状が進行していきます。再発の回数を減らし、進行期に入らないようにすることが必要で、この目的で使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。これらの薬を「疾患修飾薬(disease-modifying drug; DMD)」といいます。

DMDは再発回数を減らし、MRIの病巣が増えないようにします。DMDを使うことで残される障害が減り、進行期に入るのを遅らせることが期待できます。

日本では2021年9月現在、8種類のDMDが承認されています。ここではオファツムマブ(ケシンプタ®)について解説しています。4週間に1回の皮下注射薬です。日本で2021年5月に発売されました。

新規公開:2021年9月16日
更新:2022年5月17日(どのように使いますか?)
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

MSは免疫系に何らかの異常が起こり、中枢神経系(脳、脊髄、視神経)の軸索を覆っているミエリンを外敵と見なして攻撃してしまうことによって起こります。

この時、免疫細胞の1つ「B細胞」が関与していると考えられています。ケシンプタ®には「CD20」というタンパクを発現しているB細胞を除去する作用があります。そうすることで血液中からCD20陽性B細胞がなくなり、関係する免疫システムへの様々な影響によりMSが抑えられると考えられています。

ケシンプタ®は皮下注射薬で、投与頻度は4週に1回です。しかし治療開始時だけは、効果が2カ月前後で出ることを期待して、初回、2回目は初回から1週間後、3回目は初回から2週間後、4回目は初回から4週後と、注射します。5回目以降の投与は4週間隔で継続していきます。
例:年初から始めるとすると 初回(1/4)、2回目(1/11)、3回目(1/18)、4回目(2/1)、5回目(3/1)以降4週間隔を継続

ペン型の注射器で皮膚に押し付けるだけで注射できるようになっています。

海外の第Ⅲ相の臨床試験では投与開始1年後では47%、2年後では87.8%の患者さんにおいて、病気の活動性が認められない状態であることが判明しました。また日本人を含むロシアとの第II相臨床試験では、MRIで確認される新規病巣を93.6%抑制することが確認されました。

ケシンプタ®の効能は「再発寛解型MSと疾患活動性を有する二次性進行型MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制」となっています。

二次性進行型MSとは、再発寛解型MSの人が、再発やMRIの新規病巣がなくても症状が進行するようになった状態をいいます。しかし二次性進行型MSと診断された人でも、再発やMRIで新しい病巣が認められることがあります。ケシンプタ®はこういった活動性のある二次性進行型MSにおいても、再発を抑えてMRI上の新しい病巣を抑える効果が確認されました。

ケシンプタ®を使ってもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

基本的には入院は必要ありませんが、施設によっては、特に初回は注射後の経過をみるために入院して行う場合もあるかもしれません。

使用期間は決められていません。ケシンプタ®はMSの再発・進行を抑制する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けた方がよいといえます。長期のPML、腫瘍発生リスクについては理解しておく必要があります。

ケシンプタ®はMSの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば難病として医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

B細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。またB型肝炎にかかったことがある場合は、もしかしたらウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があるかもしれません。

注射に伴って発熱や頭痛、疲労などの全身反応が起こることがよくあります。注射部位が赤くなったり痛くなったりする注射部位反応が出ることもあります。

MSのDMDで懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)については、ケシンプタ®では報告はありません。しかし同じ系統のB細胞除去療法(リツキシマブ、オクレリズマブ)でPMLが報告されているため、念のため注意は必要です。PMLに関してはタイサブリ®Q&Aをご覧ください。→「タイサブリ®Q&A」へ

注射に伴う発熱などの全身反応はよく起こる反応です。治療1回目に起こることが多く、2〜3回目と続けるうちになくなっていきます。施設によってはこれを予防するために、ステロイド薬の点滴や抗ヒスタミン剤の内服を行うことがあります。発熱には解熱鎮痛剤で対処します。

感染症にかかりやすくなるとはいえ、過度に神経質になる必要はありません。一般的な感染症予防をしてください。B型肝炎に関しては治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われ、必要に応じて、治療中や治療終了後は肝機能検査値やB型肝炎ウイルスマーカーのモニタリングなどを行います。

PMLに関してはケシンプタ®では報告はありません。しかしPMLの初期症状のような異変(精神状態・行動の変化、記憶障害、進行性の片側麻痺、四肢麻痺、構音障害、視野障害、失語症など)を感じたら主治医に連絡してください。

他の治療・予防接種について

ケシンプタ®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。他に併用が禁止されている薬剤はありません。

ケシンプタ®の治療中は、インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンやコロナワクチンは受けられますが、ワクチンの効果が十分に得られないかもしれません。

コロナワクチンについては、すでにケシンプタ®を使用中の場合は、ワクチンの接種時期はケシンプタ®投与日から離すことが勧められています。しかし現実的には、希望通りにワクチン接種の予約が入れられないことや、またファイザーのワクチンだと3週間後に2回目の接種をする必要があり、2回のワクチンのうちどちらかはケシンプタ®の投与日と近くなってしまいます。ワクチンの接種日を優先し、必要に応じてケシンプタ®の投与日をずらしてください。ケシンプタを新規で始める場合は極力、ケシンプタ®の投与4週間前にコロナワクチンを済ませておくことが勧められています。

ケシンプタ®の治療中は、生ワクチンの接種はB細胞数が回復するまでは接種しないほうがよいとされています。

ケシンプタ®使用中のステロイドパルス療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、PMLなど他の脳の病気との鑑別を慎重にした上で、ステロイドパルスを行うことがあります。

効いているのでしょうか?

ケシンプタ®は効き始めに少し時間がかかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし治療を続けていても再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はケシンプタ®が合っていないのかもしれず、治療の見直しが必要になってきます。

別のDMDからケシンプタ®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていたDMDの効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する「リバウンド」の可能性もあります。

妊娠・出産

ケシンプタ®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。しかし動物実験においてケシンプタ®が胎盤を通過したという報告があります。催奇形性の報告はありませんが、服用中は避妊してください。添付文書には薬の投与を止めた後も6ヶ月間は避妊するように書かれている一方、妊娠中の使用は禁忌とはされていません。安全性に関する知見が十分ではなく、慎重な対応が必要です。妊娠中にケシンプタ®を使用した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。

ケシンプタ®を服用しているのが男性の場合、妊娠・胎児への影響については結論付けられていません。現在のところ、男性へのケシンプタ®の投与制限はありません。

妊娠に気づいたら主治医に報告してください。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開が勧められています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

薬剤が母乳を介して乳児に移行する可能性があります。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、ケシンプタ®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。