視神経脊髄炎(NMOSD)

リツキサン®

視神経脊髄炎(NMOSD)は何も治療をしていないと再発を繰り返す病気です。しかも1回の再発が大きく、1回の再発で失明したり車いす生活になったりすることもあります。そのためNMOSDでは診断されたらすぐに再発予防治療を始めます。

これまではステロイド薬と免疫抑制薬が治療の中心でしたが、2019年以降、有効な薬が新しく5製剤承認されました。そのうちここではリツキシマブ(リツキサン®)について解説しています。モノクローナル抗体製剤で、6カ月ごとに2週間隔で2回の点滴薬です。日本では2022年6月に承認されました。

新規公開:2022年9月7日
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

NMOSDは免疫系に何らかの異常が起こり、自分に対する抗体(自己抗体)が、アストロサイトの「アクアポリン4(AQP4)」という、水を細胞に出し入れする通路を形作るタンパク質を攻撃してしまうことによって起こります。

AQP4を攻撃しているのは、B細胞から産生される「AQP4抗体」です。リツキサン®はB細胞のうち「CD20陽性B細胞」という種類のB細胞を除去する作用があり、それによりAQP4抗体の産生が抑制されます。

治療を始める時は1週間ごとに4回、以降は6カ月ごとに2週間隔で2回の頻度で使っていきます。1回の点滴に3時間強かかります。入院は必要なく、外来での投与が可能です(※初回は多くの施設において入院)。

使用期間は決められていません。リツキサン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けたほうがよいといえます。

日本で行われたリツキサン®の治験では、ステロイド薬を服用中のNMOSD患者さんが対象になり、リツキサン®を使うグループと偽薬を使うグループの2つに分けられました。治験ではステロイド薬が少しずつ減らされ、再発するかどうかが観察されました。

結果、ステロイドの減量と共に再発する人が、リツキサン®グループではゼロだったのに対して、偽薬グループでは約4割が再発しました。ただし治験参加人数が少なく、試験期間も短かったので、この治験だけでリツキサン®の効果が100%とするのには無理があります。とはいえこの結果は統計学的にも有意差があるとされ、承認されました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。ある程度の経過を見なければ分かりません。

リツキサン®を使用してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

リツキサン®の添付文書には「本剤は、抗アクアポリン4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。

小児のNMOSDを対象とした治験は行われておらず、安全性が確立されていません。ただリツキサン®は小児の難治性ネフローゼ症候群に対して使われることがあります。小児NMOSDへの使用については主治医にご相談ください。

リツキサン®の薬価は年間100万円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。ただし医療費助成の条件にご注意ください。投与頻度は6カ月ごとに2週間隔で2回です。

副作用

点滴に伴って呼吸困難、意識の低下、意識の消失、まぶた・唇・舌のはれ、発熱、寒気、嘔吐、せき、めまい、動悸などの「注射時反応(インフュージョンリアクション)」が、リツキサン®が投与された患者さんの90%に報告されています。

またB細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。B型肝炎にかかったことがある場合は、もしかしたらウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があるかもしれません。

そして、モノクローナル抗体製剤で懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)の報告があります。発生頻度はまれですが、念のため注意は必要です。PMLに関しては多発性硬化症の薬「タイサブリ®Q&A」をご覧ください。

注射時反応は2〜3回目と続けるうちになくなっていきますが、初回はほとんどの患者さんに起こり得るため、入院して導入する施設が多いです。また、注射時反応の予防のため、リツキサン®投与前にステロイド薬の点滴や抗ヒスタミン剤の内服を行うことがあります。発熱には解熱鎮痛剤で対処します。

感染症にかかりやすくなるとはいえ、過度に神経質になる必要はありません。肺炎、尿路感染に日頃から注意して、一般的な感染症予防をしてください。B型肝炎に関しては治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われ、必要に応じて、リツキサン®治療中や治療終了後は肝機能検査値やB型肝炎ウイルスマーカーのモニタリングなどを行います。

他の治療・予防接種について

リツキサン®使用中のステロイド薬や免疫抑制剤は禁止されていません。

ただしステロイド薬は感染症リスクを高めます。リツキサン®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けたほうがよいと考えられます。

とはいえステロイド薬を減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずリツキサン®とステロイドを併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

リツキサン®と併用禁止の薬はありません。市販薬、サプリメントについては併用禁止にはなっていませんが、安全だという保障もありません。免疫に影響する薬剤は主治医とご相談ください。

リツキサン®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、ステロイドパルス療法や血漿浄化療法を行うことがあります。抗体は血漿交換で除去されるので次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

リツキサン®の治療中は、インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンや新型コロナワクチンは受けられますが、抗体産生は十分ではないかもしれません。ただしワクチンの効果が必ずしも消失するわけではありません。

新型コロナワクチンについては、すでにリツキサン®を使用中の場合は、ワクチンの接種時期はリツキサン®の投与から12週以降に接種することが勧められています。リツキサン®を新規で始める場合は、治療開始4週間以上前までにワクチンの接種を終えておくとされています。

リツキサン®の治療中は、生ワクチンの接種はB細胞数が回復するまでは接種しないほうがよいとされています。

日常生活

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

投与半年を過ぎるとB細胞が回復してくる可能性があります。長期旅行や出張がある場合には、早めに主治医に相談してください。

妊娠・出産

リツキサン®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。添付文書には「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。リツキサン®使用中に妊娠した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。

薬剤が母乳を介して乳児に移行することが報告されています。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、リツキサン®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。

YouTubeでも解説しています。
リツキシマブによる視神経脊髄炎の治療(19分半)
視神経脊髄炎とリツキシマブ 〜対談〜(14分半)