視神経脊髄炎(NMOSD)

リツキサン®

視神経脊髄炎(NMOSD)は再発を繰り返すのが特徴です。再発の程度も大きく、1回の再発で歩けなくなったり目が見えなくなったりすることもあります。このようなことを繰り返すと障害が増えていってしまうため、NMOSDでは診断されたらすぐ、再発を予防する治療を始めます。

NMOSDの再発予防薬には、大きく分けて、経口の免疫抑制薬と生物学的製剤があります。ここでは生物学的製剤のリツキシマブ(リツキサン®)について解説しています。6カ月ごとに2週間隔で2回の点滴薬です。日本では2022年に承認されました。

更新:
2024年4月2日(全体を改訂)
2022年9月7日(新規公開)
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

NMOSDは血液中のアクアポリン4抗体(AQP4抗体)が、アストロサイトの足突起にあるアクアポリン4を攻撃することによって起こります。このAQP4抗体はB細胞から産生されます。リツキサン®はB細胞のうち「CD20陽性B細胞」という種類のB細胞を除去する作用があり、それによりAQP4抗体の産生が抑制されます。

治療を始める時は1週間ごとに4回、その後は初回投与から6カ月ごとに2週間隔で2回の頻度で使っていきます。1回の点滴に3時間強かかります。入院は必要なく、外来での投与が可能です。

しかしリツキサン®はもともと抗がん剤として用いられており、治療を受ける場合は通常、がん治療に精通したスタッフや設備が整っている化学療法室で行われます。また、副作用のインフュージョンリアクションには迅速な対応が望まれます。このようなことからリツキサン®を最初に点滴する時は、入院となる施設が多いです。

使用期間は決められていません。リツキサン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けた方がいいといえます。

日本で行われたリツキサン®の治験では、ステロイド薬を服用中のNMOSD患者さんが対象になり、リツキサン®を使うグループと偽薬を使うグループの2つに分けられました。治験ではステロイド薬が少しずつ減らされ、再発するかどうかが観察されました。

結果、ステロイド薬の減量と共に再発する人が、リツキサン®グループでは誰もいなかったのに対して、偽薬グループでは約4割が再発しました。治験参加人数が少なく、試験期間も短かったので、この治験だけでリツキサン®の効果が100%とするのには無理がありますが、この結果は統計学的にも有意差があるとされ、承認されました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。ある程度の経過を見なければ分かりません。

また、リツキサン®を始めてから1〜2カ月間は、病状が不安定になります。

リツキサン®を使用してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

リツキサン®の添付文書には「本剤は、抗アクアポリン4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。

小児NMOSDに対しての臨床試験は行われていませんが、他の小児疾患で使われていることから、選択肢の1つとして検討されるかもしれません。

リツキサン®の維持期の年間薬剤費は約95万円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。
※医療費助成の条件にご注意ください。投与頻度は6カ月ごとに2週間隔で2回です。

副作用

点滴に伴って呼吸困難、意識の低下、意識の消失、まぶた・唇・舌の腫れ、発熱、寒気、嘔吐、せき、めまい、動悸などの全身反応(インフュージョンリアクション)が、リツキサン®が投与された患者さんの90%に報告されています。

またB細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。B型肝炎にかかったことがある場合は、ウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があります。

そして、モノクローナル抗体製剤で懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)の報告があります。発生頻度はまれですが、念のため注意は必要です。PMLに関しては多発性硬化症の薬「タイサブリ®Q&A」をご覧ください。

インフュージョンリアクションはほとんどの患者さんに起こり得るため、起こった場合に迅速に対処できるよう、入院が勧められます。また、インフュージョンリアクションの予防のため、リツキサン®の投与前に、内服の抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤が使われます。点滴のステロイド薬が使われることもあります。

感染症にかかりやすくなるとはいえ、過度に神経質になる必要はありません。一般的な感染対策をしてください。B型肝炎に関しては治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われます。

他の治療・予防接種について

リツキサン®使用中のステロイド薬や免疫抑制薬は禁止されていません。ただしステロイド薬は感染症リスクを高めます。リツキサン®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けた方がいいと考えられます。

とはいえステロイド薬を減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ず、リツキサン®とステロイド薬を併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

ただしリツキサン®を始めてから1〜2カ月間は病状が不安定になるため、この期間はステロイド薬の量は変えず、併用します。

リツキサン®には併用が禁止されている薬剤はありません。NMOSD患者さんの多くはステロイド薬や免疫抑制薬、対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。

リツキサン®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法が行われることがあります。次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

リツキサン®の治療中は、インフルエンザや帯状疱疹などの不活化ワクチンやコロナワクチンは受けられますが、ワクチンの効果が十分に得られないかもしれません。

ワクチン接種時期については、リツキサン®の投与と投与の間くらいの接種が勧められています。

麻疹ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチンなどの生ワクチンを接種すると、ワクチンの病原体が体内で増殖する可能性があります。リツキサン®の治療中、および中止後もB細胞数が回復するまでは生ワクチンの予防接種は避けてください。

日常生活

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

投与半年を過ぎるとB細胞が回復してくる可能性があります。長期旅行や出張がある場合には、早めに主治医に相談してください。

妊娠・出産

リツキサン®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。添付文書には「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。リツキサン®使用中に妊娠した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。

添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、リツキサン®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。