視神経脊髄炎(NMOSD)

ユプリズナ®

視神経脊髄炎(NMOSD)は何も治療をしていないと再発を繰り返す病気です。しかも1回の再発が大きく、1回の再発で失明したり車椅子生活になったりすることもあります。そのためNMOSDでは診断されたらすぐに再発予防治療を始めます。

これまではステロイド薬と免疫抑制薬が治療の中心でしたが、2019年以降、有効な薬が新しく3剤承認されました。そのうちここではイネビリズマブ(ユプリズナ®)について解説しています。モノクローナル抗体製剤で、6カ月に1回の点滴薬です。日本では2021年に承認されました。

新規公開:2022年4月27日
協力:株式会社くすりんく
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

NMOSDは免疫系に何らかの異常が起こり、自分に対する抗体(自己抗体)が、アストロサイトの「アクアポリン4(AQP4)」という、水を細胞に出し入れする通路を形作るタンパク質を攻撃してしまうことによって起こります。

AQP4を攻撃しているのは、B細胞から産生される「AQP4抗体」です。ユプリズナ®はB細胞のうち「CD19陽性B細胞」という種類のB細胞を除去する作用があり、それによりAPQ4抗体の産生が抑制されます。

治療を始める時は初回、2週間後に点滴し、その後は初回投与から6カ月後、以降6カ月に1回の間隔で点滴します。入院は必要なく、外来での投与が可能です。

使用期間は決められていません。ユプリズナ®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けたほうがよいといえます。

ユプリズナ®の治験では、AQP4陽性の患者さんの再発リスクを単剤で偽薬との比較で77.3%低下させました。また偽薬群に比べて、EDSSの悪化を抑制し、MRIの活動病巣を減らし、入院回数を減らしたことも認められました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。参考として血液中のユプリズナ®量は、ユプリズナ®投与後すぐに増えることが分かっています。またユプリズナ®を投与してから血中のB細胞が消滅するのに約1カ月かかります。

ユプリズナ®を使用してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

ユプリズナ®添付文書には、「抗AQP4抗体陰性の患者において有効性を示すデータは限られている。本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。

小児を対象とした治験は行われておらず、安全性が確立されていません。そのため、ユプリズナ®は小児には使用できません。

ユプリズナ®は1回の点滴が3,495,304円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。ただし医療費助成の条件にご注意ください。ユプリズナの投与頻度は半年に1回です。

副作用

B細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。またB型肝炎にかかったことがある場合は、もしかしたらウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があるかもしれません。

点滴に伴って呼吸困難、意識の低下、意識の消失、まぶた・唇・舌のはれ、発熱、寒気、嘔吐、せき、めまい、動悸などの全身反応が起こることもあります。

モノクローナル抗体製剤で懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)に関しては、ユプリズナ®では報告されていません。しかし同じ系統のB細胞除去療法(リツキシマブ)でPMLが報告されているため、念のため注意は必要です。PMLに関しては多発性硬化症の薬「タイサブリ®Q&A」をご覧ください。

感染症にかかりやすくなるとはいえ、過度に神経質になる必要はありません。肺炎、尿路感染に日頃から注意して、一般的な感染症予防をしてください。B型肝炎に関しては治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われ、必要に応じて、ユプリズナ®治療中や治療終了後は肝機能検査値やB型肝炎ウイルスマーカーのモニタリングなどを行います。

注射に伴う全身反応は治療1回目に起こることが多く、2〜3回目と続けるうちになくなっていきます。施設によってはこれを予防するために、ステロイド薬の点滴や抗ヒスタミン剤の内服を行うことがあります。発熱には解熱鎮痛剤で対処します。

他の治療・予防接種について

ユプリズナ®使用中のステロイド薬や免疫抑制剤は禁止されていません。

ただしステロイド薬は感染症リスクを高めます。ユプリズナ®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けたほうがよいと考えられます。

とはいえステロイド薬を減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずユプリズナ®とステロイドを併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

ユプリズナ®と併用禁止の薬はありません。市販薬、サプリメントについては併用禁止にはなっていませんが、安全だという保障もありません。免疫に影響する薬剤は主治医とご相談ください。

ユプリズナ®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、ステロイドパルス療法や血漿浄化療法を行うことがあります。抗体は血漿交換で除去されるので次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

ユプリズナ®の治療中は、インフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンや新型コロナワクチンは受けられますが、ワクチンの効果が十分に得られないかもしれません。

新型コロナワクチンについては、すでにユプリズナ®を使用中の場合は、ワクチンの接種時期はユプリズナの投与から12週以降に接種することが勧められています。ユプリズナ®を新規で始める場合は、治療開始4週間以上前までにワクチンの接種を終えておくとされています。

ユプリズナ®の治療中は、生ワクチンの接種はB細胞数が回復するまでは接種しないほうがよいとされています。

日常生活

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

ユプリズナ®の治験では、投与半年を過ぎると、一部の患者さんでB細胞が回復してくる傾向が認められていますが、すぐに正常値に戻るわけではありません。長期旅行や出張がある場合には、早めに主治医に相談してください。

妊娠・出産

ユプリズナ®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。催奇形性の報告はありませんが、添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましい」「本剤投与中及び最終投与後6カ月間は適切な避妊を行うよう指導すること」と書かれています。安全性に関する知見が十分ではなく、慎重な対応が必要です。ユプリズナ®使用中に妊娠した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。

薬剤が母乳を介して乳児に移行する可能性があります。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、ユプリズナ®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。