視神経脊髄炎(NMOSD)

エンスプリング®

視神経脊髄炎(NMOSD)は何も治療をしていないと再発を繰り返す病気です。しかも1回の再発が大きく、1回の再発で失明したり車椅子生活になったりすることもあります。そのためNMOSDでは診断されたらすぐに再発予防治療を始めます。

これまではステロイド薬と免疫抑制薬が治療の中心でしたが、2019年以降、有効な薬が新しく3剤承認されました。そのうちここではサトラリズマブ(エンスプリング®)について解説しています。モノクローナル抗体製剤で、4週間に1回の皮下注射薬です。日本では2020年に承認されました。

新規公開:2022年3月2日  更新:2022年4月27日
協力:株式会社くすりんく
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

NMOSDは免疫系に何らかの異常が起こり、自分に対する抗体(自己抗体)が、アストロサイトの「アクアポリン4(AQP4)」という、水を細胞に出し入れする通路を形作るタンパク質を攻撃してしまうことによって起こります。

エンスプリング®は、インターロイキン6(IL-6)受容体に結合して、その働きを阻害するお薬です。IL-6は様々な免疫反応や炎症反応に関わっています。NMOSDにおける自己免疫反応や炎症にもIL-6が強く関わっているため、エンスプリング®によって炎症反応が抑えられると再発が防げると考えられています。

エンスプリング®は2020年8月に承認された皮下注射薬です。初回、2週後、4週後に投与し、以降は4週間隔で投与します。2021年9月から自己注射が認められ、医療施設だけではなく、自宅で注射することもできるようになりました。自己注射を希望する場合は、主治医の指導を受けることが必要です。

2022年4月から、入院中にエンスプリング®を使用した場合、エンスプリング®にかかる治療費が入院費に包括されることになりました。高いお薬なので、多くの施設では入院中にエンスプリング®を使用することが難しくなります。入院でのエンスプリング®使用が可能かどうかは主治医に確認ください。

使用期間は決められていません。エンスプリング®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けたほうがよいといえます。

プラセボ(偽薬)と比較した臨床試験(治験)がNMOSDを対象として2つ行われました。

◉併用試験
日本と海外と共同で行われた治験です。患者さんは、少量のプレドニゾロンまたは免疫抑制薬(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)を使用しながら、実薬群(エンスプリング®)と偽薬群(プラセボ)に1:1で割りつけられ、投与開始から最初の再発までの期間が比較されました。結果、AQP4抗体陽性の患者さんにおいて、実薬群で偽薬群に比べて79%の再発抑制効果が認められました。

◉単剤試験
北米での治験です。患者さんにはエンスプリング®だけが投与され、他の再発予防薬の併用はありませんでした。結果、AQP4抗体陽性の患者さんにおいて、実薬群で偽薬群に比べて74%の再発抑制効果が認められました。

「再発しない=効果が出ている」と考えると、いつから薬の効果が出ているのかは判断が難しいです。

参考として血液中のエンスプリング®量は、エンスプリング®の注射後すぐに増えることが分かっています。臨床試験の結果(単剤試験のAQP4抗体陽性)では、3カ月目には、再発していない患者さんの割合が偽薬群より大きくなってきているようです。

エンスプリング®を注射してもNMOSDは完治しません。現在、NMOSDを完治させる薬は存在しません。

エンスプリング®の臨床試験の結果、AQP4抗体陽性の患者さんに比べて陰性の患者さんへの効果は低いと考えられており、陽性の患者さんのみが対象となっています。添付文書には「抗アクアポリン4(AQP4)抗体陰性の患者において有効性を示すデータは限られている。本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されています。

小児にも使えますが、12歳未満の小児への安全性・効果は不明です。添付文書には「小児患者では、臨床試験で組み入れられた患者の体重を考慮して、投与の可否を検討すること」「低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は12歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施していない」と記載されています。[2022年1月改訂(第4版)]

エンスプリング®は1回の注射が1,532,660円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。

副作用

エンスプリング®の投与により、敗血症、肺炎等の重篤な感染症が現れることがあります。また、感染症の症状が出にくくなり、血液検査では炎症に関する指標(CRP)などの急性期反応が抑制されるため、感染症の発見が遅れ、重篤化する恐れがあります。

添付文書で注意喚起されている副作用は下記の通りです。
・感染症(呼吸器感染症、尿路感染症)
・過敏症 (アナフィラキシーショック、アナフィラキシー)
・無顆粒球症、白血球減少、好中球減少、血小板減少
・肝機能障害

また、他の抗IL-6受容体抗体製剤の添付文書で注意喚起されている事象は下記の通りです。
・心障害
・悪性腫瘍
・腸管穿孔
・間質性肺炎

細菌やウイルスに感染すると、通常は体の免疫が反応して熱や倦怠感が出ます。しかしエンスプリング®を使うと、体の中の免疫反応に伴う炎症反応が抑えられるため、肺炎などの重篤な感染症を起こしても、熱などの症状が出にくいことがあります。これが、感染症にかかっても「症状が出にくい(=気づきにくい)」という状態です。

次の症状が現れたらすぐにNMOSDを診てもらっている主治医に連絡するか、医療機関を受診してください。その際はエンスプリングカードを提示してください。

・呼吸器系の感染症:発熱、息苦しさ、喉の痛み、咳、たん、鼻水など
・尿路系の感染症:排尿時の痛み、残尿感、排尿の回数が頻回、尿が濁っているなど
・大腸系の感染症:下腹部の痛み、下痢など

また定期的に血液検査によって白血球や肝臓機能の数値をチェックしてもらうことが必要です。

他の治療・予防接種について

エンスプリング®の使用中のステロイド薬や免疫抑制剤は禁止されていません。臨床試験でもステロイド薬や免疫抑制剤を一緒に使った併用試験が行われています。

ただしステロイド薬は感染症リスクを高めます。エンスプリング®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けたほうがよいと考えられます。

とはいえステロイド薬を減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずエンスプリング®とステロイド薬を併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

エンスプリング®と併用禁止の薬はありません。市販薬、サプリメントについては併用禁止にはなっていませんが、安全だという保障もありません。免疫に影響する薬剤は主治医とご相談ください。

エンスプリング®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、ステロイドパルス療法や血漿浄化療法を行うことがあります。抗体は血漿交換で除去されるので次回の投与については主治医と相談してください。

変更可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

ワクチンには、生ワクチン、不活化ワクチン、トキソイドがあります。

エンスプリング®服用中は、生ワクチン(BCG、ポリオ、麻疹風疹混合、麻疹、風疹など)の接種はできません。添付文書には「本剤投与中は、生ワクチンの接種に起因する感染症発現の可能性を否定できないので、生ワクチンの接種は行わないこと」と記載されています。

不活化ワクチンについては特に制限はなく、インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン等の不活化ワクチンを接種する際のタイミングについての報告は現時点ではありません。

新型コロナワクチンについては日本神経学会より見解が出ており、エンスプリング®の投与3週後くらい(次の投与の1週前)に接種を受けることが勧められています。ワクチンの接種のスケジュールを優先し、必要に応じてエンスプリング®の投与日をずらしてください。

日常生活

運動や仕事の制限は特にありません。感染症にかかりやすくなることがあるので、体調管理にご注意ください。

次の注射が予定より遅れる場合は、可能な限り速やかに投与すること、となっています。前回の投与から何週遅れたか(8週未満、8週以上12週未満、12週以上)によって対応が異なるので、主治医にご相談ください。

妊娠・出産

エンスプリング®は動物実験で胎盤を通過することが分かっており、妊娠中も継続するかは主治医とご相談ください。添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験 (カニクイザル)で本薬は胎盤関門を通過することが示されている」と記載されています。[2022年1月改訂(第4版)]

エンスプリング®は動物実験で乳汁中へ移行することが分かっています。授乳を継続するか中止するかは、主治医とご相談ください。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本薬のヒト乳汁への移行は不明である。一般にIgGは乳汁中に移行することが知られており、非臨床試験においても本薬は乳汁中へ移行することが確認されている」と記載されています。[2022年1月改訂(第4版)]

ただ、エンスプリング®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響は与えないとの見解もあります。