視神経脊髄炎(NMOSD)

検査と診断

AQP4抗体の有無を調べる血液検査

NMOSDは、血液中を流れるアクアポリン4抗体(AQP4抗体)が、アストロサイトを攻撃することによって起こる病気です。従ってNMOSDの診断では、血液中にAQP4抗体があるかどうかを調べる血液検査は必須です。

AQP4抗体の測定法には主に「CBA法」と「ELISA法」の2種類があります。NMOSDの検査として通常行われているのは保険適用のあるELISA 法です。検査の精度については、CBA法のほうが高いことが分かっています。従ってELISA法の結果が陰性でも、症状としてNMOSDが疑わしい場合は、CBA法で再検査することがあります。

またAQP4抗体は、治療の影響で陰性になることもあります。例えばステロイド薬や免疫抑制薬など免疫を抑える治療をした後は、抗体価が低下することによって陰性の結果が出ることがあります。その場合は、薬の用量が少なくなった時、あるいは再発した時などに、再度測定する必要があります。

NMOSDでは甲状腺疾患や膠原病など、別の病気の自己抗体も血液中に認められることが多いため、AQP4抗体以外の自己抗体の有無も調べます。

病巣の大きさや分布がわかるMRI検査

MRI検査は強い磁気と電波を使って体の断面像を写し出す検査です。これによりNMOSDの病巣を確認できます。

NMOSDでは主に「T1強調画像」「T2強調画像」「FLAIR画像」という方法で撮られ、T1強調画像では病巣は黒く、T2強調画像とFLAIR画像では白く写ります。脊髄は「T2強調画像」「プロトン密度強調像」または「STIR画像」、視神経は「脂肪抑制T2強調画像」または「STIR画像」という方法で撮られます。

MRI検査では、「ガドリニウム」という造影剤を使うことがあります。これは、病巣が最近生じて活動しているものなのか、過去の名残なのかを調べるためです。活動中の病巣はガドリニウムを使うとT1強調画像で白く染まって写ります。

NMOSDでは脊髄MRIで、脊椎の3椎体以上に渡る縦に長い病巣が見られることが多いです。また輪切りにした脊髄MRIでは大抵、中心の灰白質という部分に大きな病巣があります。

脳MRIに病巣が認められることもあり、腫れを伴って大きなものからポツポツ小さなものまで様々です。脳MRIでは、病巣が認められるのに症状には現れない「無症候性病巣」が認められることもあります。この無症候性病巣も含めると、NMOSDの50〜70%に大脳病巣があるといわれています。

視神経の具合を調べる眼科検査

NMOSDは目に症状が出ることが多い病気です。次の検査は主に眼科で行われます。

中心フリッカー値(CFF)測定検査
筒をのぞき込んで光の点滅を見ます。検査では点滅の速度が変えられていき、それが分からなくなる時点と、分かり始める時点が調べられます。正常値は35〜45Hzで、視神経に異常があると、その値が低くなります。

視野検査
視野の範囲を調べる検査です。機器に顎を乗せて中心にある印を見つめ、周りに点滅する光が見える範囲が調べられます。

光干渉断層計(OCT)検査
近赤外線を利用して網膜の厚さを測定することで、視神経の状態がどうなっているかを詳しく調べる検査です。

脳脊髄内の状態がわかる髄液検査

脳と脊髄の周りは「脳脊髄液(髄液)」で満たされています。この髄液の状態を調べるのが髄液検査です。髄液は、腰椎穿刺(ルンバール)という方法で、背中から背骨の間に針を刺して抜き取ります。針を刺す間はじっとしている必要があり、終わった後も1時間程度の安静が必要です。

NMOSDでは通常、髄液に次のような所見がみられます。ただ、全てのNMOSDがこのような結果を示すとは限りません。

脳脊髄圧ほぼ正常(70〜180mm水柱)
外観無色透明
細胞数増加することが多い (数個~時に50個/μl以上)。多形核球が増加することがある
総タンパク急性増悪期で上昇することが多い
IgGインデックス上昇することは少ない
オリゴクローナルバンド10〜20%で陽性

神経の伝わり具合がわかる誘発電位検査

誘発電位検査では体に刺激を与え、その刺激が脳に達するまでの速さと強さを調べます。伝わり方に異常があれば、その刺激の通り道に障害があると考えられます。診察室でおこなう神経診察では全て正常でも、この検査で異常が検出されることがあります。

誘発電位検査には、次の4種類があります。

視覚誘発電位(VEP)
視神経を調べる検査です。白黒が反転するテレビ画面、または点滅する光を見つめます。

聴性脳幹誘発電位(BAEP)
脳幹を調べる検査です。ヘッドホンを付けて「カチカチ」というかすかな鋭い音を聞き、その刺激が耳から脳に伝わるまでの時間が測定されます。

体性感覚誘発電位(SEP)
脊髄と脳幹を調べる検査です。左右の手首と足首に軽い電気刺激を受け、その刺激が脳までどのように伝わるのかが調べられます。

運動誘発電位(MEP)
脳や脊髄に磁気刺激を加えて、運動神経の機能を調べる検査です。SEPが感覚神経の通り道を調べるのに対して、MEPは運動神経の通り道の異常を調べます。あまり行われません。

NMOSDの診断基準

NMOSDの診断には長らく、2006年に発表された「ウィンガーチャックの診断基準」が使われてきました。しかしこの基準に当てはまらないケースが多いことがわかり、2015年に改定されました。

日本では厚生労働省が定める独自の基準を用いて、難病の認定がおこなわれています。しかし実際の現場では、ウィンガーチャックの診断基準が一般的に使われています。

専門分野は「神経免疫」

診療科でいうとNMOSDは「脳神経内科(神経内科)」が通常担当します。脳神経内科の中にも認知症や脳血管障害などいくつかの専門分野がありますが、NMOSDは「神経免疫」を専門にする医師が担当することが多いです。