多発性硬化症(MS)

テクフィデラ®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返した後に徐々に症状が進行していきます。再発の回数を減らし、進行期に入らないようにすることが必要で、この目的で使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。これらの薬を「疾患修飾薬(disease-modifying drug; DMD)」といいます。

DMDは再発回数を減らし、MRIの病巣が増えないようにします。DMDを使うことで残される障害が減り、進行期に入るのを遅らせることが期待できます。

日本では2021年11月現在、8種類のDMDが承認されています。ここではフマル酸ジメチル(テクフィデラ®)について解説しています。1日に2回の飲み薬です。日本で2017年に発売されました。

新規公開:2018年2月1日  更新:2022年4月27日
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

MSは免疫系に何らかの異常が起こり、中枢神経系(脳、脊髄、視神経)の軸索を覆っているミエリンを外敵と見なして攻撃してしまうことによって起こります。

テクフィデラ®は、免疫を担当する細胞の1つであるリンパ球が活発にならないようにする作用と、「酸化ストレス」から神経細胞を保護する作用があると考えられています。

テクフィデラ®には、120mgと240mgのカプセルがあります。

常用量は朝晩それぞれ240mgカプセルの服用ですが、副作用軽減のため、添付文書上は1回120mg 1日2回から投与を開始し、1週間後に1回240mg 1日2回投与に増量するとされています。

ただ、より軽減することを目的に、1週間毎に120mgずつ増量する方法をとることもあります。

再発寛解型MSを対象にした海外の臨床試験では、偽の薬が投与されたグループに比べ2年間で約50%、年間再発回数を減らしたことが示されています。

日本ではアジア諸国と一部のヨーロッパの国とで共同の治験がおこなわれました。224人(日本は113人)が参加したこの治験でも年間再発率が減少したこと、またMRIで新たにできる病巣の数を減らしたことが確認されました。

海外の臨床試験ではMSの身体障害度の進行を抑制したことが報告されています。日本におけるテクフィデラ®の効能は「多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制」です。

テクフィデラ®を飲んでもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

使用期間は決められていません。テクフィデラ®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けたほうが良いといえます。

入院は必要とされていません。

テクフィデラ®はMSの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば難病として医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

頻度が高い副作用は、顔や体がほてって赤くなる潮紅(フラッシング)、下痢や吐き気、腹痛などの胃腸障害です。この2つの副作用は、薬を飲み始めた初期の頃に起こりやすく、治療を続けるにつれ慣れてきます。

その他、リンパ球の減少、肝機能数値の異常、感染症、かゆみなどが報告されています。海外からPML(進行性多巣性白質脳症)が報告されていますが、頻度は低いです。

「潮紅」とは服用後に顔や体がほてって赤くなる症状です。フラッシングと呼ばれることもあります。薬を飲み始めた初期の頃に起こりやすく、治療を続けるにつれて慣れてきます。

対策としては、食事と一緒に服用したり、テクフィデラ®服用の30分前にアスピリンを服用したりすることで軽減できることがあります。ジフェンヒドラミン塩酸塩(レスタミンコーワ錠®、レスタミンコーワ糖衣錠®)、ロラタジン(クラリチン錠®、クラリチンレディタブ錠®、クラリチンEX®、クラリチンEX OD錠®)が使われることもあります。

また1カ月程度の間、テクフィデラ®を減量することで(120mgを1日2回)、潮紅をやわらげられる場合があります。この場合は様子を見つつ、薬を増やしていきます。1カ月以上経過しても、潮紅のために240mgを1日2回まで増量できない場合は、服用を中止することが勧められています。

下痢や吐き気、腹痛などの胃腸障害が起こることがあります。潮紅と同じく薬を飲み始めたばかりの頃に多く、徐々に慣れてきます。

対策としては、脂肪の多い食べ物(ピーナッツバターやヨーグルト、チーズなど)と一緒に服用したり、胃腸薬を服用したりすることで、軽減できることがあります。

モンテルカストナトリウム(シングレア®、キプレス®)が使われることもあります。

また1カ月程度の間、テクフィデラ®を減量することで(120mgを1日2回)、消化器系症状をやわらげられる場合があります。この場合は様子を見つつ、薬を増やしていきます。1か月以上経過しても、消化器系症状のために240mgを1日2回まで増量できない場合は、服用を中止することが勧められています。

リンパ球が減ったり、肝機能の数値に異常が出たりすることがあります。自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。もともと肝機能の数値に異常がないかどうか、治療前に確認しておく必要もあります。検査値によっては、服用を中止することが勧められています。

注意が必要なのはリンパ球の減少です。リンパ球が減ると感染症にかかりやすくなりますし、海外ではテクフィデラ服用中にPML(進行性多巣性白質脳症)の発症が報告されています。リンパ球の数が少ない状態が続くとPML発症リスクが高まるといわれています。

そのためテクフィデラ®の服用前、そして服用後は少なくとも3ヶ月に1回の頻度で血液検査をしてリンパ球の数を確認します。PMLに関してはタイサブリ®Q&Aをご覧ください。→「タイサブリ®Q&A」へ

服用時間など

テクフィデラ®は空腹の状態で服用すると潮紅や消化器系症状の副作用が出やすくなります。そのため朝食後・夕食後に飲むことが勧められています。

1回飲み忘れても大きな影響はないので、次から飲んでください。しかし頻繁に飲み忘れるの良くありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®を飲み過ぎたことによる健康被害は報告されていませんが、頻繁に飲む量を間違えるのはよくありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®のカプセルは一般のカプセル薬より大きめです。飲み込むのが難しい場合は、喉にひっかからないよう、服用前に少量の水を飲んで、予め喉を潤しておいてください。そして飲む時は口の中に水を含んでからカプセルを口に入れて、顎を引いて下を向き、一気に飲み込んでください。

子供や高齢者が使う服薬用のゼリーも市販されています。薬局でご相談ください。カプセルは噛まないようにしてください。

他の治療・予防接種について

テクフィデラ®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。

また免疫を抑える作用があるため、経口ステロイド薬(プレドニゾロン®、プレドニン®など)や免疫抑制薬(イムラン®、アザニン®、プログラフ®など)との併用はお勧めできません。

テクフィデラ®の治療中でもワクチンは受けられます。コロナワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。

テクフィデラ®服用中のステロイドパルス療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、PMLなどほかの脳の病気との鑑別を慎重にした上で、ステロイドパルスを行うことがあります。

効いているのでしょうか?

テクフィデラ®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし、再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はテクフィデラ®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別の再発予防薬からテクフィデラ®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていた薬の効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する前薬の「リバウンド」の可能性もあります。

妊娠・出産

日本の添付文書では「治療しないことによるリスクのほうが大きいのであれば、妊娠中の使用はやむを得ない」といったことが書かれています。けれども妊婦への安全性は確立していないことと、そもそも妊娠中はMSが安定する傾向にあることを考慮し、妊娠が分かったらテクフィデラ®は中止するのが原則です。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開がすすめられています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

薬剤が母乳を介して乳児に移行する可能性は不明です。添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。