多発性硬化症(MS)

テクフィデラ®

多発性硬化症(MS)の多くは、再発と寛解を繰り返しながら、症状が徐々に悪化する進行期に入ります。

進行期に入るまでの期間は人によりますが、病巣ができるのを抑え、症状が徐々に悪化する進行期に入らないようにしておくことが必要です。そのために使われるのが再発予防・進行抑制の薬です。経過を改善するという意味合いで「疾患修飾薬(disease-modifying drug : DMD)」と呼ばれます。

日本では2024年2月現在、8種類のDMDが承認されています。ここではフマル酸ジメチル(テクフィデラ®)について解説しています。1日に2回の飲み薬です。日本で2016年12月に承認されました。

更新:
2024年9月2日(医療費を追加)
2024年2月10日(全体を改訂)
2022年4月27日(全体を改訂)
2018年2月1日(新規公開)
文:MSキャビン編集委員
大橋高志、越智博文、近藤誉之、中島一郎、新野正明、宮本勝一、横山和正、中田郷子

全体的なこと

MSは免疫系に何らかの異常が起こり、脳、脊髄、視神経の軸索を覆っているミエリンを外敵と見なして攻撃してしまうことによって起こります。

テクフィデラ®は、免疫を担当する細胞の1つであるリンパ球が活発にならないようにする作用と、「酸化ストレス」から神経細胞を保護する作用があると考えられています。

テクフィデラ®はカプセル薬で1日に2回、朝・夕食後に服用します。

120mgと240mgの2つの用量があり、治療開始後1週間は120mgカプセルを、その後は240mgカプセルに増やしていきます。

再発寛解型MSを対象にした海外の臨床試験では、偽の薬が投与されたグループに比べて2年間で約50%、年間再発回数を減らしたことが示されています。

日本ではアジア諸国と一部のヨーロッパの国とで共同の治験が行われました。224人(日本は113人)が参加したこの治験でも年間再発率が減少したこと、またMRIで新たにできる病巣の数を減らしたことが確認されました。

海外の臨床試験ではMSの身体障害度の進行を抑制したことが報告されています。日本におけるテクフィデラ®の効能は「多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制」です。

テクフィデラ®を飲んでもMSは完治しません。現在、MSを完治させる薬は存在しません。

使用期間は決められていません。テクフィデラ®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けた方がいいといえます。

入院は必要とされていません。

テクフィデラ®の維持期の年間薬剤費は2024年4月1日現在、約302万円です(240mgを使用)。しかしMSの治療薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用

頻度が高い副作用は、顔や体がほてって赤くなる潮紅(フラッシング)、下痢や吐き気、腹痛などの消化器症状です。この2つの副作用は、薬を飲み始めた初期の頃に起こりやすく、治療を続けるにつれ慣れてきます。しかし中には治療開始後も長く続く人もいます。

その他、リンパ球の減少、肝機能数値の異常、感染症などが報告されています。海外からPML(進行性多巣性白質脳症)が報告されていますが、頻度は低いです。

「潮紅(ちょうこう)」とは服用後に顔や体がほてって赤くなる症状です。フラッシングと呼ばれることもあります。

対策としては、食事と一緒に服用したり、テクフィデラ®服用の30分前にアスピリンを服用したりすることで軽減できることがあります。ジフェンヒドラミン(レスタミンコーワ錠®、レスタミンコーワ糖衣錠®)、ロラタジン(クラリチン錠®、クラリチンレディタブ錠®、クラリチンEX®、クラリチンEX OD錠®)が使われることもあります。

また、薬を1週間で常用量に増やすところを、ゆっくり1カ月程度かけることで、やわらげられる場合もあります。増やした際に再び潮紅が問題になり、対症療法も効果がなければ、別の薬に変えることが検討されます。

下痢や吐き気、腹痛などの胃腸障害が起こることがあります。

対策としては、チーズやヨーグルト、豆乳と一緒に服用したり、薬を1週間で常用量に増やすところを1カ月程度かけてゆっくりにしたり、胃腸薬を服用したりすることで軽減できることがあります。

リンパ球数が減ったり、肝機能の数値に異常が出たりすることがあります。自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。検査値によっては、薬を減らしたり治療を休止・中止したりすることがあります。

注意が必要なのはリンパ球数の減少です。リンパ球数が減ると感染症にかかりやすくなります。また、海外ではテクフィデラ®服用中にPML(進行性多巣性白質脳症)の発症が報告されています。その報告では、テクフィデラ®の治療中にリンパ球数が少ない状態が続くと、PML発症リスクが高まると考察されています。

そのためテクフィデラ®の服用前、そして服用後は少なくとも3カ月に1回の頻度で血液検査をしてリンパ球の数を確認します。PMLに関してはタイサブリ®のページご覧ください。→「タイサブリ®」へ

服用時間など

テクフィデラ®は空腹の状態で服用すると潮紅や消化器症状の副作用が出やすくなります。そのため朝食後・夕食後に飲むことが勧められています。

1回飲み忘れても大きな影響はないので、次から飲んでください。しかし頻繁に飲み忘れるのは良くありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®を飲み過ぎたことによる健康被害は報告されていませんが、頻繁に飲む量を間違えるのはよくありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®のカプセルは一般のカプセル薬より大きめです。飲み込むのが難しい場合は、喉にひっかからないよう、服用前に少量の水を飲んで、あらかじめ喉を潤しておいてください。そして飲む時は口の中に水を含んでからカプセルを口に入れて、顎を引いて下を向き、一気に飲み込んでください。

子供や高齢者が使う服薬用のゼリーも市販されています。薬局でご相談ください。カプセルはかまないようにしてください。

他の治療・予防接種について

テクフィデラ®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。

また免疫を抑える作用があるため経口ステロイド薬(プレドニゾロン®、プレドニン®など)や免疫抑制薬(イムラン®、アザニン®、プログラフ®など)との併用はお勧めできません。

テクフィデラ®の治療中でもワクチンは受けられます。接種時期は気にしなくて構いません。

テクフィデラ®服用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、PMLなど他の脳の病気との鑑別を慎重にした上で、ステロイドパルス療法を行うことがあります。

効いているのでしょうか?

テクフィデラ®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし、再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はテクフィデラ®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別のDMDからテクフィデラ®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていたDMDの効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する「リバウンド」の可能性もあります。

妊娠・出産

テクフィデラ®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。妊娠前にテクフィデラ®を中止する必要もありません。妊娠が分かったらすぐに中止してください。国内外ともに、先天異常のリスクの増加は報告されていません。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開が勧められています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

添付文書には「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。テクフィデラ®治療中の授乳は可能です。