多発性硬化症(MS)

メーゼント®

メーゼント®(シポニモド)は、多発性硬化症(MS)の疾患修飾薬(DMD)です。1日に1回の飲み薬です。日本では2020年6月に承認されました。

商品名(一般名)メーゼント®(シポニモド)
投与方法(頻度)飲み薬(1日1回)
効能または効果二次性進行型多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制
薬価
1,083.5円/0.25mg 1錠、8,668円/2mg 1錠(2025年8月現在)
どのように使うのですか?
  • 錠剤を1日1回、服用します。
  • 副作用を減らすため、少量から始めて6〜7日間かけて増量していきます。
  • 増量期間中は、決められた服用量を確実に守る必要があります。
どのような効果がありますか?
  • リンパ球がリンパ節や脾臓から出るのを抑え、血液や脳・脊髄へ入るリンパ球を減らすことで、再発を抑えると考えられています。
  • 日本での効能は「二次性進行型MSの再発予防および身体的障害の進行抑制」です。
  • 再発や新しいMRI病巣がある二次性進行型MSの人に対して、再発と新規病巣を抑える効果が確認されています。
どのような副作用がありますか?
  • 循環器系:服用開始後に脈拍数の低下や心電図の異常が出ることがあり、開始時は6時間以上の心拍・血圧・心電図モニターが必要です。7日目までは自宅で脈拍数の測定も行います。
  • 感染症:リンパ球が減少するため、帯状疱疹・ヘルペス・真菌感染症・PML(海外で2例報告)などに注意が必要です。
  • 黄斑浮腫:物がゆがんで見えるなどの症状が出ることがあり、MSの再発との区別も重要です。服用3〜4カ月後に眼科検査が推奨され、糖尿病やぶどう膜炎の既往がある人は特に注意が必要です。開始前にも眼科検査を受けておくと安心です。
  • その他:リンパ球減少・肝機能障害・血圧上昇なども報告されています。

主な作用・投与方法・効果・医療費

MSは免疫系に何らかの異常が起こり、中枢神経系(脳、脊髄、視神経)の軸索を覆っているミエリンを外敵と見なして攻撃してしまうことによって起こります。

メーゼント®は免疫を担当する細胞の1つであるリンパ球が、リンパ節・脾臓などのリンパ組織から出て行くのを抑えます。すると体内を循環するリンパ球の数、そして脳・脊髄に入っていくリンパ球の数も減り、MSの再発が抑えられるという機序が考えられています。

メーゼント®は錠剤で1日に1回、服用します。副作用の軽減のため、少ない量から服用し始めて6〜7日間かけて増やしていきます。この期間は確実に服用量を守る必要があります。

日本ではメーゼント®の効能は「二次性進行型MSの再発予防及び身体的障害の進行抑制」となっています。

二次性進行型MSとは、再発寛解型MSの人が、再発やMRIの新規病巣がなくても症状が進行するようになった状態をいいます。しかし二次性進行型MSと診断された人でも、再発やMRIで新しい病巣が認められることがあります。メーゼント®はこういった場合において、再発を抑えてMRI上の新しい病巣を抑える効果が確認されました。

メーゼント®は治療に必要な薬の量が人によって違います。また体質的にメーゼント®が使えない人もいます。タイプは大きく「メーゼント®を使える人(薬の量は全量)」「メーゼント®を使える人(薬の量は半量)」「メーゼント®を使えない人」の3つに分かれます。

どのタイプかを調べるために、メーゼント®を始める前には必ず、遺伝子検査(採血)が行われます。

メーゼント®の維持期の年間薬剤費は2025年8日現在、約316万円です(2mgを使用した場合)。しかしMSの治療薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用と対処法

メーゼント®にはさまざまな副作用が報告されていますが、注意が必要なのは循環器系への影響、感染症、黄斑浮腫、リンパ球数の減少・肝機能障害、血圧の上昇です。

薬を飲み始めてから数日間にわたって脈拍数の低下(徐脈)や心電図の異常が見られることがあります。従って治療開始時は最低6時間、病院で心拍数や血圧、心電図の測定を受ける必要があります。6時間後に異常がなく主治医による判断があれば帰宅できます。治療開始後7日目までは、自宅においても脈拍数を測定する必要があります。

始めるにあたっては、入院は必須とはされていません。

メーゼント®を服用すると、体内を循環するリンパ球の数が減るため、感染症にかかりやすくなると考えられます。一般的な感染症の他、水痘・帯状疱疹、単純ヘルペス感染症、真菌感染症、PML(進行性多巣性白質脳症)などにも注意が必要です。PMLは2023年9月現在、海外で2例の報告があります。

発見が遅れると視力を失う可能性がある黄斑浮腫が出ることがあります。多くは物がゆがんで見えるのですが、MSの再発との鑑別も必要です。視力や視野の異常があったら主治医に伝えてください。片目で格子模様を見てゆがんでいないかを確認するのもいいでしょう。

初期の黄斑浮腫は症状が出ないことがあるので、何も症状がなくてもメーゼント®服用3〜4カ月後には眼科の検査を受けることが勧められています。特に糖尿病やぶどう膜炎になったことがある人は黄斑浮腫のリスクが高いといわれています。リスクに応じて定期的に眼科で検査を受けることが必要です。

また無症状の黄斑浮腫をすでに発症していないかどうかを調べるため、メーゼント®開始前にも眼科で検査を受けておくことをお勧めします。

リンパ球数が減ったり、肝機能の数値に異常が出たりすることがあります。自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。また、もともと肝機能に異常がないかどうか、治療前に確認しておく必要があります。

飲み忘れ・飲みすぎ・飲む時間

1日飲み忘れても大きな影響はないので、翌日から飲んでください。しかし頻繁に飲み忘れるのはよくありません。1日に1回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

また、メーゼント®は4日間以上連続して飲み忘れた場合は、治療を始めた1日目の量から再開しなくてはなりません。4日間以上飲み忘れたら必ず主治医に連絡してください。

メーゼント®を飲み過ぎたことによる健康被害は報告されていません。しかし頻繁に飲む量を間違えるのはよくありません。1日に1回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

メーゼント®を飲む時間に決まりはありません。しかし飲み間違い・飲み忘れを防ぐためにも「朝食後」など時間を決めて服用することをお勧めします。販売会社から発行されている服用管理手帳も活用してください。

他の治療薬・ワクチン接種

メーゼント®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。免疫を抑える作用があるため、経口ステロイド(プレドニゾロン®、プレドニン®など)や免疫抑制剤(イムラン®、アザニン®、プログラフ®など)との併用はお勧めできません。

そしてメーゼント®は脈拍数に影響を与えるため、一部の抗不整脈薬との併用は禁止されています。その他にも併用に注意が必要な薬剤があります。メーゼント®開始にあたっては、現在服用中の薬を全て、主治医に伝えてください。

メーゼント®服用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、PMLなど他の脳の病気との鑑別を慎重にした上で、ステロイドパルス療法を行うことがあります。

ただ帯状疱疹や重症感染症のリスクが高くなるため、ステロイドの使用は最小限にとどめるべきで、再発時のステロイドパルス療法も注意して行う必要があります。

メーゼント®の治療中はインフルエンザワクチンなどの不活化ワクチンや新型コロナワクチンは受けられます。

新型コロナワクチンについては、すでにメーゼント®を服用中の場合はワクチンの接種時期については気にしなくて構いません。メーゼント®を新規で始める場合は、服用開始2〜4週間前までにコロナワクチンの接種を終えておくことが望ましいとされています。

メーゼント®の治療中は生ワクチンの接種は受けられません。麻疹ワクチン、風疹ワクチン、水痘ワクチン、ポリオワクチン、BCGなどの生ワクチンを接種すると、ワクチンの病原体が体内で増殖する可能性があります。メーゼント®服用中および中止後最低4週間は生ワクチンの予防接種は避けてください。

効果判定

メーゼント®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし治療を続けていても再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はメーゼント®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別の再発予防薬からメーゼント®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていた薬の効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する「リバウンド」の可能性もあります。

メーゼント®の中止で再発ないしリバウンドが起こる可能性もあります。自己判断で治療をやめないようにしてください。

使用期間は決められていません。メーゼント®は二次性進行型MSの進行を抑制する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けた方がいいといえます。

妊娠・出産・授乳への影響

メーゼント®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。しかしメーゼント®は胎盤を通過しやすく、動物実験で胎児に影響を及ぼしたという報告があります。服用中は避妊を徹底してください。薬が体内に残る期間は最長で10日間です。服用中だけではなく、治療を止めても最低10日間は避妊してください。

メーゼント®を服用しているのが男性の場合、妊娠・胎児への影響については結論付けられていません。現在のところ、男性へのメーゼント®の投与制限はありません。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開が勧められています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

薬剤が母乳を介して乳児に移行する可能性があります。添付文書には「授乳しないことが望ましい」と書かれています。

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進行型MSについての特集記事。2024年4月に発行した情報誌の有料記事。
  • 大橋高志(脳神経内科医・鎌ケ谷総合病院)
  • 越智博文(脳神経内科医・愛媛大学大学院)
  • 近藤誉之(脳神経内科医・関西医科大学総合医療センター)
  • 中島一郎(脳神経内科医・東北医科薬科大学)
  • 新野正明(脳神経内科医・北海道医療センター)
  • 宮本勝一(脳神経内科医・和歌山県立医科大学)
  • 横山和正(脳神経内科医・東静脳神経センター)

2025年9月1日(基本情報を追加)
2024年9月2日(医療費を追加)
2024年3月4日(全体を改訂)
2022年4月27日(全体を改訂)
2021年9月19日(新規公開)

>>多発性硬化症の疾患修飾薬(DMD)