本ページでは、MSで頻度の高い代表的な症状を整理して解説します。
視神経の症状
視神経に炎症が起こる状態を「視神経炎」といいます。MSの視神経炎では、視力低下・視野の欠け・色の見え方の異常・眼の痛みなどがみられます。
通常は数日のうちに症状がピークになりますが、時には数週間から数カ月かけてゆっくり悪化することもあります。
多くの場合は片目に起こり、両目同時に発症することはまれです。「見えにくい」という状態が中心で、失明に至るケースはほとんどありません。
脳幹・ 小脳の症状
脳幹に病巣ができると、物が二重に見える(複視)、意思とは関係なく眼が小刻みに揺れる(眼振)など、目の動きに関わる症状が起こることがあります。
小脳に病巣ができると、ろれつが回らない(構音障害)、まっすぐ歩けない、酔ったようにふらつく、動作しようとすると震える(企図振戦)といったバランス・協調運動の障害がみられます。
その他、飲み込みにくい(嚥下障害)、顔面の痛み(三叉神経痛)などが出ることもあります。
脊髄の症状
脊髄に病巣ができると、運動障害、つっぱり(痙性)、痛みやしびれ、感覚が鈍くなる、温度を感じにくい、かゆみなど、さまざまな感覚・運動の異常がみられます。
また、排尿・排便障害や性機能障害が起こることもあります。
首を前に倒したとき、背中から足にかけて電気が走るようなビリビリ感が出るレルミット徴候がみられることがあります。数秒でおさまりますが、手や腕にもしびれが走ることがあります。
さらに、動作をきっかけに、意思とは関係なく強い痛みを伴う激しいつっぱりが手足や腹筋に起こることがあり、これを有痛性強直性痙攣(ゆうつうせいきょうちょくせいけいれん)と呼びます。
大脳の症状
大脳に病巣ができると、複数の作業を同時に進めにくい、物事に時間がかかる、注意を保ちにくい、集中しづらい、記憶力の低下などの認知機能障害がみられることがあります。
ただし、アルツハイマー病のように、最初から物忘れや日付の混乱が目立つことはあまりありません。
また、感情のコントロールが難しくなる(情動障害)、気分が落ち込む(抑うつ)といった精神面の変化が出ることもあります。
疲労
疲労はMSで非常に多い症状です。人によって程度は大きく異なり、同じ患者さんでも日によって、あるいは時間帯によって変化します。外からは分かりにくいため理解されづらく、日常生活に大きな負担をもたらすこともあります。
MSの疲労は、主に次の4つのタイプに分けられ、多くの場合は複数が組み合わさって起こります。
① 通常の疲労
MSではない人も経験する、一般的な疲労です。
② 症状に起因する疲労
身体の障害によって動作が難しい場合、目的を達成するために通常より多くのエネルギーを必要とするため疲労が起こります。
また、夜間に何度もトイレに起きる頻尿による睡眠不足も、このタイプの疲労につながります。
③ 薬物による疲労
ステロイド、インターフェロン・ベータ、抗けいれん薬、抗うつ薬など、治療薬の副作用として疲労が出ることがあります。
④ 病気自体による疲労
気温・運動量・ストレスなどとは関係なく、突然どうしようもない倦怠感が生じることがあります。経験した人は
などと表現します。
突然起こることも多く、原因のメカニズムはまだ明確ではありません。
その他
体温が上がるとMSの神経症状が一時的に悪化することがあります。これをウートフ現象と呼びます。体温が下がれば症状は元に戻りますが、起こりやすさや程度には個人差があります。
また、性機能が障害されることがあります。なお、MSが直接の原因で妊娠できなくなることはありません。
さらに、MSの人では片頭痛や緊張型頭痛が多いという報告があります。共通の環境因子や遺伝的背景が関係している可能性が指摘されています。
MSの症状の特徴
MSの症状は、病巣ができる場所によって現れ方が変わります。病巣ができる部位や大きさは人それぞれで違うので、症状の出方や強さには個人差があります。
従って、1人の患者さんと別の患者さんを比べたとき、「同じ病気なのに全く違うように見える」ことも珍しくありません。
また、症状は季節や体調の影響を受けて変動しやすく、日によって、あるいは1日の中でも変化します。「昨日は元気そうだったのに、今日はつらそう」ということもよくあります。
このような症状の変動は、再発との区別が難しい場合があり、多くの患者さんの悩みの種になっています。
病巣と症状は必ず一致するとは限らない
症状の多くは、病巣ができた場所に応じて現れます。
しかし、MRIで確認できる病巣と実際の症状が、必ずしも一致するわけではありません。症状が出ていなくても、検査をすると新しい病巣が見つかることがあります。
このように、症状を出さずに存在する病巣を「無症候性病巣(むしょうこうせいびょうそう)」と呼び、MSではよくみられる特徴です。
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- 大橋高志(脳神経内科医・鎌ケ谷総合病院)
- 越智博文(脳神経内科医・愛媛大学大学院)
- 近藤誉之(脳神経内科医・関西医科大学総合医療センター)
- 中島一郎(脳神経内科医・東北医科薬科大学)
- 新野正明(脳神経内科医・北海道医療センター)
- 宮本勝一(脳神経内科医・和歌山県立医科大学)
- 横山和正(脳神経内科医・東静脳神経センター)
2025年12月05日(ページ構成改訂)
2023年10月18日(全体を改訂)
2000年1月(新規公開)
監修:MSキャビン編集委員
出典:MSキャビン「MSのあらまし:主な症状一覧」
URL:https://www.mscabin.org/ms/msshojo/
(最終更新日:2025年12月05日)






