多発性硬化症(MS)

テクフィデラ®

テクフィデラ®(フマル酸ジメチル)は、多発性硬化症(MS)の疾患修飾薬(DMD)です。1日に2回の飲み薬です。再発寛解型MSの治療薬の中で、効果が中くらいのクラスに属します。日本では2016年12月に承認されました。

一般名(商品名)フマル酸ジメチル(テクフィデラ®)
投与方法(頻度)飲み薬(1日2回)
効能または効果多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制
薬価4,132円/240mg 1カプセル(2025年7月現在)
再発寛解型MSへの効果中くらい
どのように使うのですか?
  • カプセル薬を、1日2回(朝・夕食後)に服用します。
  • 用量は120mgと240mgがあり、治療開始から1週間は120mgを服用します。
  • その後、240mgカプセルに増量していきます。
どのような効果がありますか?
  • 海外の臨床試験で、偽薬と比べて年間再発回数を約50%減らす効果が示されました。
  • 日本を含むアジア・欧州の治験でも、年間再発率を下げ、新しいMRI病巣の発生を抑えることが確認されています。
どのような副作用がありますか?
  • よく見られるのは、顔や体のほてり(潮紅)や、下痢・吐き気・腹痛などの消化器症状です。
  • その他、リンパ球の減少、肝機能異常、感染症などが報告されています。
  • 海外ではPML(進行性多巣性白質脳症)の報告もありますが、頻度は低いです。

主な作用・投与方法・効果・医療費

MSは免疫系に何らかの異常が起こり、脳、脊髄、視神経の軸索を覆っているミエリンを外敵と見なして攻撃してしまうことによって起こります。

テクフィデラ®は、免疫を担当する細胞の1つであるリンパ球が活発にならないようにする作用と、「酸化ストレス」から神経細胞を保護する作用があると考えられています。

海外の臨床試験ではMSの身体障害度の進行を抑制したことが報告されています。日本におけるテクフィデラ®の効能は「多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制」です。

テクフィデラ®はカプセル薬で1日に2回、朝・夕食後に服用します。

120mgと240mgの2つの用量があり、治療開始後1週間は120mgカプセルを、その後は240mgカプセルに増やしていきます。

再発寛解型MSを対象にした海外の臨床試験では、偽の薬が投与されたグループに比べて2年間で約50%、年間再発回数を減らしたことが示されています。

日本ではアジア諸国と一部のヨーロッパの国とで共同の治験が行われました。224人(日本は113人)が参加したこの治験でも年間再発率が減少したこと、またMRIで新たにできる病巣の数を減らしたことが確認されました。

テクフィデラ®の維持期の年間薬剤費は2024年4月1日現在、約302万円です(240mgを使用)。しかしMSの治療薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。

副作用と対処法

頻度が高い副作用は、顔や体がほてって赤くなる潮紅(フラッシング)、下痢や吐き気、腹痛などの消化器症状です。この2つの副作用は、薬を飲み始めた初期の頃に起こりやすく、治療を続けるにつれ慣れてきます。しかし中には治療開始後も長く続く人もいます。

その他、リンパ球の減少、肝機能数値の異常、感染症などが報告されています。海外からPML(進行性多巣性白質脳症)が報告されていますが、頻度は低いです。

「潮紅(ちょうこう)」とは服用後に顔や体がほてって赤くなる症状です。フラッシングと呼ばれることもあります。

対策としては、食事と一緒に服用したり、テクフィデラ®服用の30分前にアスピリンを服用したりすることで軽減できることがあります。ジフェンヒドラミン(レスタミンコーワ錠®、レスタミンコーワ糖衣錠®)、ロラタジン(クラリチン錠®、クラリチンレディタブ錠®、クラリチンEX®、クラリチンEX OD錠®)が使われることもあります。

また、薬を1週間で常用量に増やすところを、ゆっくり1カ月程度かけることで、やわらげられる場合もあります。増やした際に再び潮紅が問題になり、対症療法も効果がなければ、別の薬に変えることが検討されます。

下痢や吐き気、腹痛などの胃腸障害が起こることがあります。

対策としては、チーズやヨーグルト、豆乳と一緒に服用したり、薬を1週間で常用量に増やすところを1カ月程度かけてゆっくりにしたり、胃腸薬を服用したりすることで軽減できることがあります。

リンパ球数が減ったり、肝機能の数値に異常が出たりすることがあります。自覚しにくい副作用なので、定期的に血液検査をしてもらってください。検査値によっては、薬を減らしたり治療を休止・中止したりすることがあります。

注意が必要なのはリンパ球数の減少です。リンパ球数が減ると感染症にかかりやすくなります。また、海外ではテクフィデラ®服用中にPML(進行性多巣性白質脳症)の発症が報告されています。その報告では、テクフィデラ®の治療中にリンパ球数が少ない状態が続くと、PML発症リスクが高まると考察されています。

そのためテクフィデラ®の服用前、そして服用後は少なくとも3カ月に1回の頻度で血液検査をしてリンパ球の数を確認します。PMLに関してはタイサブリ®のページご覧ください。→「タイサブリ®」へ

飲み忘れ・飲みすぎ・飲み方

1回飲み忘れても大きな影響はないので、次から飲んでください。しかし頻繁に飲み忘れるのは良くありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®を飲み過ぎたことによる健康被害は報告されていませんが、頻繁に飲む量を間違えるのはよくありません。1日に2回の服用を続けていくのが難しいようであれば、主治医にご相談ください。

テクフィデラ®のカプセルは一般のカプセル薬より大きめです。飲み込むのが難しい場合は、喉にひっかからないよう、服用前に少量の水を飲んで、あらかじめ喉を潤しておいてください。そして飲む時は口の中に水を含んでからカプセルを口に入れて、あごを引いて下を向き、一気に飲み込んでください。

子供や高齢者が使う服薬用のゼリーも市販されています。薬局でご相談ください。カプセルはかまないようにしてください。

他の治療薬・ワクチン接種

テクフィデラ®は他のMS疾患修飾薬とは併用できません。また、免疫を抑える作用があるため経口ステロイド薬(プレドニゾロン®、プレドニン®など)や免疫抑制薬(イムラン®、アザニン®、プログラフ®など)との併用はお勧めできません。

テクフィデラ®服用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合には、PMLなど他の脳の病気との鑑別を慎重にした上で、ステロイドパルス療法を行うことがあります。

テクフィデラ®の治療中でもワクチンは受けられます。接種時期は気にしなくて構いません。

効果判定

テクフィデラ®は効果が出るまでに数カ月かかるといわれています。治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。

しかし、再発が続く場合や、これまでに経験したことがないような大きな再発をした場合はテクフィデラ®が合っていないのかもしれず、治療や診断の見直しが必要になってきます。

別のDMDからテクフィデラ®に変更した時にこのようなことが起こった場合には、それまで使っていたDMDの効果が切れたことによる再発、あるいは急激に病気が悪化する「リバウンド」の可能性もあります。

使用期間は決められていません。テクフィデラ®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ、続けた方がいいといえます。

妊娠・出産・授乳への影響

テクフィデラ®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。妊娠前にテクフィデラ®を中止する必要もありません。妊娠が分かったらすぐに中止してください。国内外ともに、先天異常のリスクの増加は報告されていません。

一般的には出産後にMSの再発率が上昇するので、早めの治療再開が勧められています。初乳が済んだ時点で治療を再開するのが望ましいとされることもありますが、お母さんやご家族の気持ちもあります。妊娠前・その時点での病状も含めて、主治医とご相談ください。

添付文書には「治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。テクフィデラ®治療中の授乳は可能です。

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更新:
2025年8月23日(基本情報を追加)
2024年9月2日(医療費を追加)
2024年2月10日(全体を改訂)
2022年4月27日(全体を改訂)
2018年2月1日(新規公開)

>>多発性硬化症の疾患修飾薬(DMD)