リツキサン®(一般名:リツキシマブ)は、視神経脊髄炎(NMOSD)の再発予防薬です。6カ月ごとに2週間隔で2回点滴します。日本では2022年6月に承認されました。
リツキサン® – 基本情報
| 商品名(一般名) | リツキサン®(リツキシマブ) |
| 投与方法(頻度) | 点滴(6カ月ごとに2週間隔で2回) |
| 効能または効果 | 視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防 |
| 薬価 | 89,606円/500mg(2025年10月現在) ※NMOSDに対する用量は1,000mgのため、実際の投与はこの瓶を2本組み合わせて行います。 |
リツキサン® – よくあるQ&A
リツキサン® – 詳細
主な作用・効果・投与方法・医療費
NMOSDは血液中のアクアポリン4抗体(AQP4抗体)が、アストロサイトの足突起にあるアクアポリン4を攻撃することによって起こります。このAQP4抗体はB細胞から産生されます。
リツキサン®はB細胞のうち「CD20陽性B細胞」という種類のB細胞を除去する作用があります。それによりAQP4抗体の産生が抑制されます。
日本で行われたリツキサン®の治験では、ステロイドを服用中のNMOSD患者さんが対象になり、リツキサン®を使う群と偽薬を使う群の2つに分けられました。
治験ではステロイドが少しずつ減らされ、再発するかどうかが観察されました。
結果、ステロイドの減量と共に再発する人が、リツキサン®群では誰もいなかったのに対して、偽薬群では約4割が再発しました。
治験参加人数が少なく、試験期間も短かったので、この治験だけでリツキサン®の効果が100%とするのには無理がありますが、この結果は統計学的に有意差があるとされ、NMOSDの再発予防薬として承認されました。
リツキサン®の添付文書には「本剤は、抗アクアポリン4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。
小児NMOSDに対しての臨床試験は行われていませんが、他の小児疾患で使われていることから、選択肢の1つとして検討されるかもしれません。
リツキサン®は6カ月ごとに2週間間隔で2回の点滴薬です。
治療を始める時は1週間ごとに4回、その後は初回投与から6カ月ごとに2週間隔で2回の頻度で使っていきます。1回の点滴に3時間強かかります。
しかしリツキサン®はもともと抗がん剤として用いられており、治療を受ける場合は通常、がん治療に精通したスタッフや設備が整っている化学療法室で行われます。
また、副作用のインフュージョンリアクションには迅速な対応が望まれます。
このようなことからリツキサン®を最初に点滴する時は、入院となる施設が多いです。
リツキサン®の維持期の年間薬剤費は2025年10月現在、約72万円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。
※医療費助成の条件にご注意ください。投与頻度は6カ月ごとに2週間隔で2回です。
副作用と対処法
B細胞を除去する作用があることから、感染症にかかりやすくなります。とはいえ、過度に神経質になる必要はありません。一般的な感染対策をしてください。
また、B型肝炎にかかったことがある場合は、ウイルスが再活性化し、劇症肝炎を引き起こす可能性があります。そのため治療開始前にB型肝炎の抗原・抗体検査が行われ、必要に応じて、治療中や治療終了後は肝機能検査値やB型肝炎ウイルスマーカーのモニタリングなどが行われます。
進行性多巣性白質脳症(PML)の報告があります。発生頻度はまれですが、念のため注意は必要です。
PMLの初期症状のような異変(精神状態・行動の変化、記憶障害、進行性の片側麻痺、四肢麻痺、構音障害、視野障害、失語症など)を感じたら主治医に連絡してください。
PMLに関しては多発性硬化症の治療薬タイサブリ®のページをご覧ください。→「タイサブリ®」へ
点滴に伴って呼吸困難、意識の低下、意識の消失、まぶた・唇・舌の腫れ、発熱、寒気、嘔吐、せき、めまい、動悸などの全身反応(インフュージョンリアクション)が、90%の患者さんで報告されています。
ほとんどの患者さんに起こり得るため、起こった場合に迅速に対処できるよう、入院が勧められます。
また、インフュージョンリアクションの予防のため、リツキサン®の投与前に、内服の抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛剤が使われます。点滴のステロイドが使われることもあります。
他の治療・予防接種について
リツキサン®には併用が禁止されている薬はありません。
NMOSD患者さんの多くはステロイドや免疫抑制薬、対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。
むしろリツキサン®は、治療を始めてから1〜2カ月間は病状が不安定になるため、この期間はステロイドの量は変えず、併用します。
ただしステロイドは感染症リスクを高めます。リツキサン®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けた方がいいと考えられます。
また、ステロイドを減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずリツキサン®とステロイドを併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。
リツキサン®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法が行われることがあります。次回の投与については主治医と相談してください。
リツキサン®から他の薬剤への変更は可能です。ただし、治療薬によって作用機序・投与方法・投与期間が異なるので、変更する治療薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。
リツキサン®の治療中は、インフルエンザや帯状疱疹などの不活化ワクチンやコロナワクチンは受けられますが、ワクチンの効果が十分に得られないかもしれません。
ワクチン接種時期については、リツキサン®の投与と投与の間くらいの接種が勧められています。
麻疹ワクチン・風疹ワクチン・水痘ワクチンなどの生ワクチンを接種すると、ワクチンの病原体が体内で増殖する可能性があります。リツキサン®の治療中、および中止後もB細胞数が回復するまでは生ワクチンの予防接種は避けてください。
効果判定
リツキサン®は、治療を始めてから1〜2カ月間は、病状が不安定になります。
治療開始後すぐに再発した場合はまだ効果が出ていないのかもしれず、すぐに「効いていない」とは判断できません。
使用期間は決められていません。リツキサン®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けた方がいいといえます。
妊娠・出産・授乳への影響
リツキサン®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。添付文書には「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。
リツキサン®使用中に妊娠した場合は、出産後に子供の血液中のB細胞をチェックする必要があります。
添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」と書かれています。ただ、リツキサン®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響を与えないとの見解もあります。
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- 大橋高志(脳神経内科医・鎌ケ谷総合病院)
- 越智博文(脳神経内科医・愛媛大学大学院)
- 近藤誉之(脳神経内科医・関西医科大学総合医療センター)
- 中島一郎(脳神経内科医・東北医科薬科大学)
- 新野正明(脳神経内科医・北海道医療センター)
- 宮本勝一(脳神経内科医・和歌山県立医科大学)
- 横山和正(脳神経内科医・東静脳神経センター)
- 2025年11月12日(基本情報・よくあるQ&Aを追加)
- 2024年9月2日(医療費を修正)
- 2024年4月2日(全体を改訂)
- 2022年9月7日(新規公開)
監修:MSキャビン編集委員
出典:MSキャビン「NMOSD治療薬解説:リツキサン」
URL:https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdrituximab/
(最終更新日:2025年11月12日)






