ユルトミリス®(一般名:ラブリズマブ)は、視神経脊髄炎(NMOSD)の再発予防薬です。8週間に1回点滴します。日本では2023年5月に承認されました。
ユルトミリス®基本情報
| 商品名(一般名) | ユルトミリス®(ラブリズマブ) |
| 投与方法(頻度) | 点滴(8週間に1回) |
| 効能または効果 | 視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防 |
| 薬価 | 2,419,945円/1,100mg 1瓶(2025年7月現在) ※NMOSDに対する用量は3,000〜3,600mgなので、実際の投与はこの瓶を複数本組み合わせて行います。 |
ユルトミリス® – よくあるQ&A
ユルトミリス® – 詳細
主な作用・効果・投与方法・医療費
NMOSDは、血液中のアクアポリン4抗体(AQP4抗体)がアストロサイトにくっつき、中枢神経内で「補体」と呼ばれるたんぱく質群が活性化して炎症が起こることで発症すると考えられています。
ユルトミリス®は、この補体の成分のひとつである「C5」に選択的に結合し、その活性化を阻害します。補体の反応が抑えられることで、結果的にNMOSDの再発を減らすことが期待されています。
このように補体の働きを抑える機序から、ユルトミリス®は「抗補体薬」に分類されます。
日本を含めた世界的な臨床試験では、全員にユルトミリス®が投与されました。比較対象としてソリリス®の治験の偽薬群のデータが用いられました。
結果、投与開始から50週間の経過観察において、ユルトミリス®投与群で再発が認められた人はいませんでした。
日本人では、ユルトミリス®が結合する「C5」の部分に、遺伝子タイプの違いを持つ人が一部(約3.5%)います。これがあるとユルトミリス®が結合しにくく、効果が期待できません。
そのため治療を始める前に、薬剤反応性の遺伝子検査(採血)が行われます。検査にかかる費用は患者さんの負担にはなりません。
また、治療開始後に、補体が適切に抑えられているかを確認する血液検査(CH50)が行われることがあります。一般的な採血で測定できる検査です。
ユルトミリス®の添付文書には「抗アクアポリン4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されており、陰性の患者さんには使えません。
小児NMOSDに対しての臨床試験は行われていませんが、他の小児疾患で使われていることから、治療選択肢の1つとして検討されるかもしれません。
髄膜炎菌感染症の他、播種性淋菌感染症、肺炎球菌感染症、インフルエンザ菌感染症(細菌による感染症。ウイルスによって起こる季節性のインフルエンザとは全く異なります)など、重篤な感染症に注意が必要です。
ユルトミリス®は8週間に1回の点滴薬です。初回、2回目は初回から2週間後、以降8週間ごとに治療を受けます。1回の点滴所要時間は体重によって異なり、25〜55分ほどです。
基本的には初回投与を含めて入院は必要ありません。
ユルトミリス®の維持期の年間薬剤費は体重によって異なり、2025年10月現在、約4,719〜5,148万円です(年間6.5回で計算)。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成」をご覧ください。
副作用と対処法
髄膜炎菌感染症は、ユルトミリス®の副作用の中で最も注意が必要な重篤な感染症です。発症後は迅速な治療が非常に重要で、12時間以内に治療を始めなければ命に関わる可能性があります。
そのためユルトミリス®の投与を受ける場合は、治療開始2週間前までに必ず髄膜炎菌ワクチンを接種することになっています。ステロイドや免疫抑制薬を使用している場合には、8週以上間隔を空けて2回接種することが推奨されています。
現在、髄膜炎菌ワクチンには
- 4価ワクチン(MenACWY)
- B型ワクチン(MenB)
- 5価ワクチン(MenABCWY)
の3種類があります。
米国疾病対策予防センター(CDC)は、4価とB型の両方を接種することを推奨しており、ユルトミリス®治療中は予防的な抗菌薬の内服も検討するよう示しています。
一方、日本で承認されているのは4価のみです。B型は一部のトラベルクリニックで自費(国内未承認)で接種できます。
5価ワクチンは4価とB型を1本で補える新しいタイプで、米国などで使用されていますが、日本ではまだ承認・導入されていません。
また、ワクチンはその後も5年ごとに接種することが勧められています。
ただし、ワクチンを接種していてもリスクを下げるだけで、感染の可能性は完全にはなくならないため注意が必要です。
髄膜炎菌感染症が疑われる症状は、発熱、頭痛、吐き気・嘔吐、筋肉の痛みなどです。うなじのこわばり、発疹、光が異常にまぶしく感じる、手足の痛み、混乱して考えがまとまらない、などの症状にも注意が必要です。
風邪やインフルエンザと区別が付きにくいですが、これらの症状が現れたら直ちに主治医または緊急時に受診可能な医療機関に連絡してください。主治医や医療機関と連絡が取れない場合はすぐに救急車を呼び、「患者安全性カード」を救急救命室のスタッフに提示してください。
ユルトミリス®による治療中は、髄膜炎菌以外にも、播種性淋菌感染症・肺炎球菌感染症・インフルエンザ菌感染症(細菌による感染症。ウイルスによる季節性インフルエンザとは異なる)など、補体系が抑えられていることで注意が必要となる感染症があります。
欧州の臨床データ(Neurology, 2024*)によると、同じ補体C5阻害薬であるソリリス®では、高齢で障害の程度が高い患者さんで感染症のリスクが高まり、髄膜炎菌や淋菌に限らず、さまざまな細菌や真菌による重症感染が報告されています。
淋菌感染症は多くの場合無症状ですが、排尿時痛、陰茎先端部からの膿様分泌、膣分泌物の増加、腹部/骨盤部の痛みなどの症状が出ることがあります。播種性淋菌感染症が全身に広がると、髄膜炎や心内外膜炎を合併することがあります。
風邪症状以外にも、いつもと異なる症状や原因不明の発熱などが現れた場合は、早めに診察を受けてください。
生物学的製剤で一般的に懸念される進行性多巣性白質脳症(PML)については、ユルトミリス®では報告されていません。
点滴に伴う全身反応(インフュージョンリアクション)が報告されています。
インフュージョンリアクションはアレルギー反応や頭痛、ショック、アナフィラキシーなどで、点滴を始めてすぐに起こることが多いです。
そのため点滴終了後は一定時間、病院内での経過観察が求められます。
他の治療薬・ワクチン接種
NMOSD患者さんの多くはステロイドや免疫抑制薬、そして対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。
ユルトミリス®使用中の急性増悪期の治療は禁止されていません。再発と考えられる場合にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法が行われることがあります。 次のユルトミリス®投与については主治医と相談してください。
血漿浄化療法や免疫グロブリン静注療法を行うと、ユルトミリス®の血中濃度が下がることが分かっています。そのため、これらの治療を行った後にはユルトミリス®の補充療法が必要となります。
ユルトミリス®から他の薬剤への変更は可能です。薬によって作用機序・投与方法・投与頻度が異なるので、変更する薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。
ユルトミリス®の治療中でもワクチンは受けられます。ワクチンの接種時期は気にしなくて構いません。ステロイドや免疫抑制剤を併用していなければ生ワクチンも可能です。
効果判定
効果がいつから出ているのかの判断は難しいです。
参考として、ユルトミリス®投与後の血液中の補体の量は、治療開始1時間後には低くなることが分かっています。そのことから、ユルトミリス®は比較的早く効果が出始めるだろうと考えられています。
使用期間は決められていません。ユルトミリス®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けた方がいいといえます。
妊娠・出産・授乳への影響
ユルトミリス®の使用経験により、妊娠・出産できなくなることはありません。添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。
妊娠中も継続するかは主治医とご相談ください。
添付文書では「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とあり、患者さんそれぞれの状況と主治医の判断によるようです。
ただ、ユルトミリス®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響は与えないとの見解もあります。
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2025年11月17日(作用、遺伝子検査、髄膜炎菌感染症、髄膜炎菌以外の感染症、を追加)
2025年8月28日(基本情報を追加)
2024年3月28日(全体を改訂)
2023年9月4日(新規公開)
文:MSキャビン編集委員
監修:MSキャビン編集委員
出典:MSキャビン「NMOSD治療薬解説:ユルトミリス」
URL:https://www.mscabin.org/nmosd/nmosdultomiris/
(最終更新日:2025年11月17日)






