視神経脊髄炎(NMOSD)

エンスプリング®

エンスプリング®(サトラリズマブ)は、視神経脊髄炎(NMOSD)の再発予防薬です。4週間に1回皮下注射します。日本では2020年6月に承認されました。

商品名(一般名)エンスプリング®(サトラリズマブ)
投与方法(頻度)皮下注射(4週間に1回)
効能または効果視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む)の再発予防
薬価1,150,216円/キット(2025年7月現在)
どのように使うのですか?
  • エンスプリング®は4週間に1回、皮下注射します。
  • 治療の最初だけ、投与間隔が短くなります。
  • 病院で指導を受ければ、自宅で自己注射ができます。
どのような効果がありますか?
  • 抗体の産生を抑える作用
    NMOSDの原因となるAQP4抗体が作られるのを、IL-6の働きを抑えることで防ぎます。
  • 併用試験の結果
    少量のステロイドや免疫抑制薬と一緒に使った治験では、AQP4抗体陽性の患者さんで79%の再発抑制効果が確認されました。
  • 単剤試験の結果
    エンスプリング®単独で使った治験では、AQP4抗体陽性の患者さんで74%の再発抑制効果が確認されました。
どのような副作用がありますか?
  • 感染症:肺炎や敗血症など。症状が出にくく重症化することがあります。
  • 過敏症:息苦しさ、動悸、吐き気、発疹などのアレルギー反応。
  • 血球減少・肝機能障害:白血球や血小板が減ることがあり、定期的な血液検査が必要です。

主な作用・投与方法・効果・医療費

NMOSDは血液中のアクアポリン4抗体(AQP4抗体)が、アストロサイトの足突起にあるアクアポリン4を攻撃することによって起こります。

これまでの研究でこのAQP4抗体は、リンパ球の一種であるB細胞が分化した「形質芽細胞(プラズマブラスト)」という細胞から産生されることが分かっています。

B細胞がプラズマブラストに分化する際、またプラズマブラストがAQP4抗体を産生する際には「インターロイキン6(IL-6)」というタンパク質の刺激を受けます。

エンスプリング®はこのIL-6の働きを抑える薬です。IL-6の働きを抑えることでB細胞がプラズマブラストに分化できなくなり、さらにプラズマブラストがAQP4抗体を産生するのも抑えられます。

エンスプリング®は皮下注射薬で、治療を開始する時は2週間に1回の間隔で合計3回、その後は4週間に1回の間隔で注射します。基本的には入院は必要ありません。在宅で自己注射を希望する場合は、主治医の指導を受けることが必要です。

NMOSDを対象として、プラセボ(偽薬)と比較した臨床試験が2つ行われました。

◉併用試験
日本と海外と共同で行われた治験です。患者さんは、少量のプレドニゾロンまたは免疫抑制薬(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル)を使用しながら、実薬群(エンスプリング®)と偽薬群(プラセボ)に1:1で割り付けられ、投与開始から最初の再発までの期間が比較されました。結果、AQP4抗体陽性の患者さんにおいて、実薬群で偽薬群に比べて79%の再発抑制効果が認められました。

◉単剤試験
北米での治験です。患者さんにはエンスプリング®だけが投与され、他の再発予防薬の併用はありませんでした。結果、AQP4抗体陽性の患者さんにおいて、偽薬群に比べて実薬群で74%の再発抑制効果が認められました。

エンスプリング®の臨床試験の結果、AQP4抗体陽性の患者さんに比べて陰性の患者さんへの効果は低いと考えられており、陽性の患者さんのみが対象となっています。添付文書には「抗アクアポリン4(AQP4)抗体陰性の患者において有効性を示すデータは限られている。本剤は、抗AQP4抗体陽性の患者に投与すること」と記載されています。

エンスプリング®の臨床試験は12〜74歳を対象に行われました。添付文書には「小児患者では、臨床試験で組み入れられた患者の体重を考慮して、投与の可否を検討すること」とあります。

小児においてエンスプリング®は治療選択肢の1つになります。ただ、投与中は感染症にかかっても発熱しにくいなどの特徴があります。子供は体調不良を自発的に訴えない可能性があるため、感染症に関しては保護者の観察が一層必要です。

エンスプリング®の維持期の年間薬剤費は2025年7月現在、約1,495万円です。しかしNMOSDの再発予防薬として承認されているため、指定難病の条件を満たせば医療費助成が受けられます。詳しくは「医療費助成について」をご覧ください。

投与を忘れた場合・保管方法

エンスプリング®の自己注射を忘れた場合、気付いた時点ですぐに打ちます。そして、その日から数えて次の予定を組み直します。

前の注射から12週以上あいてしまった場合は、最初のスケジュール(2週後・4週後、その後4週間隔)に戻ります。12週未満の遅れでは、あいた期間によって次の打ち方が少し変わるので、必ず主治医に確認してください。

エンスプリング®を持ち運ぶ時は、保冷剤入りのバッグを使用してください(メーカーから専用バッグと保冷剤が提供されています)。普段は、箱のまま冷蔵庫(2~8℃)で保管してください。

やむを得ず室温(30℃以下)で保管する場合は、箱のまま保存してください。室温で置いておける期間は「合計8日以内」です。その期間内に必ず使用してください。

副作用と対処法

副作用として感染症、過敏症、血球減少などが報告されています。

◉感染症
エンスプリング®の治療中に、敗血症や肺炎などの重篤な感染症が起こることがあります。また、感染症の症状が出にくくなり、血液検査では炎症に関する指標(CRP)などの急性期反応が抑制されるため、感染症の発見が遅れ、重篤化する恐れがあります。

◉過敏症
注射後に息苦しくなったり動悸がしたり、吐き気がしたり発疹ができたりなどのアレルギー反応が起こることがあります。すぐに主治医に報告してください。

◉血球減少・肝機能障害
白血球や血小板が減少することがあります。自覚しにくいことが多いためエンスプリング®による治療中は定期的な血液検査が必要です。肝機能障害が起こることもあります。

細菌やウイルスに感染すると、通常は体の免疫が反応して熱や倦怠感が出てきます。しかしエンスプリング®を使うとそういった反応が抑えられてしまうため、肺炎などの重篤な感染症を起こしても、熱などの症状が出にくくなります。これが、感染症にかかっても症状が出にくい(=気付きにくい)という状態です。

下記の症状が現れたらすぐに主治医に連絡するか、医療機関を受診してください。その際はエンスプリングカードを提示してください。

◉呼吸器系の感染症:発熱、息苦しさ、喉の痛み、咳、たん、鼻水など
◉尿路系の感染症:発熱、排尿時の痛み、残尿感、排尿の回数が頻回、尿が濁っているなど
◉大腸系の感染症:発熱、下腹部の痛み、下痢、下血など 

他の治療薬・ワクチン接種

エンスプリング®とステロイド・免疫抑制薬との併用は禁止されていません。臨床試験でもステロイドや免疫抑制薬を一緒に使った併用試験が行われています。

ただしステロイドは感染症リスクを高めます。エンスプリング®との併用により重症感染症を招くリスクが高まるため、可能な限り併用は避けた方がいいと考えられます。

とはいえステロイドを減らすと再発のリスクが高まりそうな人もいます。そのような場合はやむを得ずエンスプリング®とステロイドを併用することになるでしょう。その場合は一層、重症感染症のリスクに注意する必要があります。

エンスプリング®には併用が禁止されている薬はありません。NMOSD患者さんの多くはステロイドや免疫抑制薬、対症療法のための薬剤を服用していますが、そういった薬剤との併用は禁止されていません。

また、エンスプリング®使用中のステロイドパルス療法や血漿浄化療法は禁止されていません。再発と考えられる場合にはステロイドパルス療法や血漿浄化療法が行われることがあります。

エンスプリング®から他の薬剤への変更は可能です。薬によって作用機序・投与方法・投与頻度が異なるので、変更する薬の種類や変更のタイミングは主治医とご相談ください。

エンスプリング®使用中は、生ワクチンの接種はできません。

インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの不活化ワクチン、また、新型コロナワクチンは接種可能です。接種のタイミングはエンスプリング®の投与と投与の間くらいが勧められます。

効果判定

効果がいつから出ているのかの判断は難しいです。

参考として血液中のエンスプリング®の量は、エンスプリング®の注射後すぐに増えることが分かっています。臨床試験の結果(単剤試験のAQP4抗体陽性)では、3カ月目には、再発していない患者さんの割合が偽薬群より大きくなってきているようです。

使用期間は決められていません。エンスプリング®は再発を予防する薬です。この薬を始めて病状が安定し、副作用に問題がなければ続けた方がいいといえます。

妊娠・出産・授乳への影響

エンスプリング®は妊娠中に禁忌とはなっていません。妊娠中も継続するかは主治医とご相談ください。

添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。動物実験 (カニクイザル)で本薬は胎盤関門を通過することが示されている」と記載されています。

エンスプリング®使用中の授乳は禁忌とはなっていません。主治医とご相談ください。

添付文書には「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。本薬のヒト乳汁への移行は不明である。一般にIgGは乳汁中に移行することが知られており、非臨床試験においても本薬は乳汁中へ移行することが確認されている」と記載されています。

ただ、エンスプリング®のような抗体製剤は、乳児の消化管で消化されるので、大きな影響は与えないとの見解もあります。

関連ブログ

NMOSDの分子標的薬(生物学的製剤)の使用に関するページ。近藤貴之先生が書いた2022年のブログ。

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2025年9月24日(投与を忘れた場合・保管方法を追加)
2025年8月26日(基本情報を追加)
2024年9月2日(医療費を修正)
2024年3月13日(全体を改訂)
2022年4月27日(全体を改訂)
2022年3月2日(新規公開)