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視神経脊髄炎と分子標的薬の使用に関する大私見 〜今はできないけど、できたらいいなと思っていること〜

近藤誉之先生(関西医科大学総合医療センター脳神経内科)より

ソリリス、エンスプリング、ユプリズナといった分子標的薬が登場して、視神経脊髄炎(NMOSD)の治療も新時代を迎えました。僕たち医師もようやく経験を積んできて、始めには思ってもいなかったことに気が付いたり、いろいろなことを考えるようになってきていると思います。

ここに書くのは随分久しぶりですね。
書きたいと思ったこと、中田さんが「もっとはっきり書いてほしい」ということもあったのですけど、それがどこかは考えてみてください。中田さんが書いてほしかったことは全体の流れとは違うことかもしれません。同時に、ここに書いていることはMSキャビンの公式見解として書くにはちょっと、ということでもあります。キャビンに参加している医師の共通意見でないことも多いし、一般的にも少数派の意見・見解も含まれています。


昨年末(2021年)、「発症後すぐに分子標的薬を使用することがありますか」と訊かれると、「ありません」と僕は答えていました。「初発時の後遺症が大きい場合は使用します」という先生の発言を聴くと、「それと再発予防が困難かは一致しないのに」と思ってきました。9割ぐらいの患者さんは、「分子標的薬がなくても治療できる」と考えていたからでもありました。

その自分の考えが去年の12月ぐらいから変化してきました。
今でも、免疫抑制剤1剤+プレドニン5mg以下でコントロールができるならそれでいいと思っています。でも、そこにたどりつけるかは治療初期にはわかりません。それならば、分子標的薬は若くて障害の少ない時期から、治療抵抗性に関わらず使用した方がいいのではと考えるようになりました。若いうちから何十年もある程度以上プレドニンを服用することから解放することこそ、分子標的薬の役割だと思うからです。治療抵抗性でプレドニンを減らせなくて困っている、身体障害が進んでから導入するというのは、有害事象を回避しようという立場からは得策ではありません。

とはいえ分子標的薬の導入は、現状では治療抵抗性の患者さんに限って行っています。お薬代が高すぎるからです。去年僕が処方した分子標的薬は10億円がかかっています。そういうことを聞くと、「うわ、これじゃ、日本経済が破壊しちゃう」「保険制度が維持できなくなる」「医療には薬代以外にも必要なことがあるのに、そこにお金が使えなくなる」と思ってしまうからです。

医療は医学的正しさを求めるだけではありません。社会を壊さないこと、お金をどこに使うかも重要です。MSの薬なみに価格設定をすれば、僕の処方した薬代は1億円になります。それでも製薬会社はやっていけるはずです。残りの9億円を使用すれば、患者さんにできることも多いでしょう。どうして、こんなばかげた価格に厚生労働省はしたのでしょう。


NMOSDの薬がMSの薬なみの価格になった時に僕がしたいなと思っている方法を少し書いてみます。若い勤労世代はエンスプリング、急性期でプレドニンが15mg以上入っている状態での導入はソリリスを最初に使用し、プレドニンを減らした後、通院回数を考慮してエンスプリングにスイッチする。

エンスプリングで有効性が乏しければソリリスへの変更あるいはプレドニン5mgか免疫抑制剤の併用を考える。通院回数からソリリスが難しければ、ユプリズナを検討する。他の膠原病など自己免疫疾患を合併している場合はユプリズナを比較的早くより検討する。

若年の勤労世代で今のラインナップだと、便利性の点では、エンスプリングが一番使いやすいかなと思います。

これが「今の」自分の考え方です。最近、講演会では言いますけど、あまり自分と同じように考えている先生の話は聴いたことはありません。また、実際にこういう診療を行うには薬代が下がることが必要だとも思っており、現状の自分の診療とも異なっています。


一方で、分子標的薬治療にあたり、感染症リスクを考慮することは重要です。プレドニンや免疫抑制剤使用においてと同様に、時にはそれ以上に考えなければいけません。

感染症リスクは50歳ぐらいから徐々に上昇しはじめ(敗血症が出現するのは特殊な状況でなければ40歳代から)、65歳以上からの感染症リスクはどんどん上昇していきます。65歳以上の分子標的薬の使用は、他の感染リスクも考慮しながらの慎重投与が望まれます。他の感染症リスクとしては「肥満」「糖尿病」「歩行能力の程度」「車椅子の使用」などがあります。

車椅子になっていると23%の人が年に1回以上の尿路感染を起こすというデータがあり、立位をとった状態で移動する装置に変えると8%に減少することも同時に報告があります。立てる・歩けるということは、感染症の予防に本当に重要なのです。


最近、敗血症の報告がされているエンスプリングについて少し書いてみましょう。

関節リウマチの患者さんの中で、アクテムラ(エンスプリングと同様の機序の薬剤)使用中に敗血症になる方は肺炎からが多かったのに、エンスプリングでは、尿路感染症から敗血症になる場合が多いことがわかってきました。エンスプリング使用中に敗血症になった方は「50歳以上」「糖尿病」「肥満」「車椅子」に加えて、「尿路結石」「神経因性膀胱」などの複数の感染症リスク・尿路感染症リスクのある方に限られています。

だから、どうしても、尿路感染症のリスクのある50歳以上の患者さんにエンスプリングを使いたいなら、週に何回か尿の性状をチェックする(尿試験紙を用いてもいいかもしれません)くらいの覚悟が必要なのだと思いますし、基本的には避けるべきだということになります。


免疫抑制剤やプレドニン5mg以下よりも分子標的薬の感染リスクが少ないのかは、より慎重に考えるべき問題だと思います。それぞれの分子標的薬とでも優劣は変化するかもしれません。ソリリスにとって最も問題となる髄膜炎菌感染症は若年者でも可能性のある感染症ですし、また性活動がある場合、淋菌感染症も命取りになりえます。一方で、高齢者がソリリスによって髄膜炎菌、淋菌以外の感染リスクを著しく悪化させることはエンスプリングやユプリズナよりは少ないのではないかと思います。でも、安心していいかはまだわからないのが実情です。

エンスプリングで敗血症になった方は、肥満、糖尿病があり、車椅子になっていた方、さらに尿路系に問題があった方が多いです。この方達に最初からエンスプリングやソリリス、ユプリズナを使用していれば、肥満や糖尿病も起こさず、車椅子にもなっていなかった、少なくとも65歳までは分子標的薬に守られながら、生活できたのにと思えてなりません。


ちょっと繰り返しをさせてください。
身体機能の保たれている(視力は含まない)活動性のある患者さん、肥満も糖尿病もなく、尿路系の問題もない50歳以下の患者さんにおいては、エンスプリングとユプリズナで起きうる有害事象のリスクより、ステロイドや免疫抑制剤を減量できるメリットのほうがまさると考えます。

ソリリスもほぼ同様ですが、髄膜炎菌感染、淋菌感染は若年者でも注意が必要で、24時間以内に致死的になりうることを考えた素早い対応が必要です。エンスプリングでも敗血症ショックになって感染症が明らかになることもあります。早期対応の必要性については、単純な感染リスクとは別にして考えた方がいいかなと思います。問題がわかってから、対応までの時間がないことが多いのが、ソリリスとエンスプリングの課題です。


さて、ここで強調したいことですけど、65歳以上への分子標的薬の投与は慎重にする必要があります。使用する場合はあらためて感染リスクがないかを検討し、感染症をモニターすることも必要です。尿の性状以外に指で血液酸素濃度を調べるなどしてもいいかなと思います。

現実に、多くの患者さんに分子標的薬を使用できるように、薬価が下がることと祈っています。ありたい姿に早くなればいいなと願っています。

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