近藤誉之先生(関西医科大学総合医療センター脳神経内科)より
京都多発性硬化症ラボで書いた記事です。 疼痛に苦しむ患者さんに少し役に立っていることを示唆するようなコメントをいただきましたので、こちらにも転記してみます。
6割ぐらいの多発性硬化症(MS)の患者さんが、疼痛やしびれを感じているといわれています。MS患者さんが感じる疼痛やしびれは、一般の患者さんが感じる疼痛やしびれよりもより強く、日常生活の障害となることが多いとの報告もあります。視神経脊髄炎(NMOSD)の疼痛やしびれはさらに強いことが多いと、多くの脳神経内科医師が感じています。
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理解できている医師は多くない
一方、疼痛やしびれを過不足なく評価することは、医師にとって困難なものです。疼痛やしびれは主観的なものです。医療者は、疼痛やしびれがどうして起こっているか分からない場合、患者さんへの共感を示せなくなることがあります。例えば、画像等で認識可能な病変部位と疼痛の関連が解剖学的に説明できない場合です。
理解できないことから生じる患者さんへの非共感によって、十分な薬物治療がされないという状況が生じることがあります。また、患者さんの訴えに従って薬剤を加えていっても実際の症状は緩和されず、覚醒度の低下、精神症状、吐き気、めまい、便秘等の副作用がより問題になることもあります。
残念ながら、私も含めて疼痛やしびれに関して十分な教育を受けている脳神経内科医はそう多くありません。
画像で確認できないこともある
MSやNMOSDでコントロール困難な疼痛に、両下肢に生じる疼痛があります。その疼痛は時には体幹や上肢にも及ぶことがあります。 燃えるような、針で突き刺すような、あるいは締め付けられるようなしつこい痛みで、しばしば日常生活を制限します。この疼痛には通常の鎮痛剤はほぼ無効です。夜間に増悪したり、運動や仕事によって強くなったりします。
また、疼痛の強さは温度や湿度によっても変動します。外気温とは無関係に、下肢が温かいとか冷たくてつらいと訴える人もいます。刺激を与えると、その程度に不釣り合いな強い痛みを訴える人もいます。こういった疼痛がNMOSDの方に特に多いのは、おそらく脊髄病変に関連した症状だからです。
脊髄病変が想定されても画像では確認できないこともあります。すると画像診断を優先する医師は、このような痛みを精神的なものとしてしまうことがあります。後で述べるように疼痛には精神科的アプローチも重要です。しかし、もともとの原因となる病気を軽視して精神科/心療内科に任せてしまうのも正しいとは思えません。
使用される薬剤
脳神経内科領域でこういった疼痛にまず使用されることの多い薬剤は、抗うつ剤、抗てんかん薬です。とはいえ、こういった薬剤で十分な効果が得られることは例外的です。より強い向精神薬やオピオイド(がん疼痛の時に使用される麻薬)を使用することもあります。しかし、薬物療法を精一杯しても患者さんの疼痛、しびれは十分に改善しないことも少なくありません。
国立精神・神経医療研究センターで、NMOSDの発症に関係のあるサイトカイン(IL-6)の働きをブロックしたところ、再発抑制だけでなく疼痛にも効果があったという報告は、難治性疼痛が簡単に精神的なものとされることへの大きな警鐘でもあります。
医師と患者で共に疼痛を認識
しかし、矛盾するようですが、精神的な要素が疼痛に影響するのもまた事実です。疼痛はうつ状態でひどくなります。疼痛は睡眠の妨げにもなりますが、睡眠障害も疼痛を増悪させます。心配や疲労も同様です。否定的な考え方をしている時や過度の不安も、疼痛の増悪因子として知られています。
欧米の疼痛コントロールの実務書には、患者さん自身も疼痛を含めて現在の状況を正しく認識し、受け入れることが重要であると記載されています。医療者の役目としては、患者さんがセルフマネージメントできるように指導する必要性も記載されています。ヨガや心理療法の効能も記載されています。また患者さんや家族への社会的サポートがない状況での疼痛の緩和が難しいことも記載されています。
私自身は患者さんに、精神的社会的状況が疼痛に大きく関与することをお話しています。問題は、私自身が内心「痛くてたまらない人に痛みを受け入れては」なんて、こちらから誘導できるのだろうかと思ってしまうことです。私自身はその点で力不足です。苦しんでいる人に苦しみを受け入れるようにと言ったって役に立つのだろうかと思うこともあります。
それでも、疼痛やしびれを診察のたびに訴えていた患者さんが、いつの間にか診察の時に訴えなくなることもあります。こちらから聞くと「痛みは変わらないかもしれないけど、こだわってても仕様がないし」などの返事が返ってきたりします。そういった患者さんは自然に自分で疼痛を受け入れるプロセスをたどったのだと思います。
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