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本音で語る多発性硬化症の真実①

その1.
MSとエプスタイン・バーウイルス

皆様、鎌ケ谷総合病院の大橋です。

長年に渡る研究の成果によって、いままで、『原因不明』といわれていた多発性硬化症 (MS) の病態が解明されつつあります。とても奥が深く、難しい内容なので、なかなかお話しする機会がありませんでしたが、この度、私なりの解釈をブログに書かせてもらうことにしました。

ただし、免疫の仕組みはきわめて複雑で、まだわからないこともたくさんあるため、いろいろな解釈の仕方があり、また、今後の新たな発見によって解釈が変わる可能性もあることをご承知おき下さい。

内容が膨大なので、6回にわけて公開する予定です。どうぞ最後までお付き合い下さい。

ウイルス感染説

「フェロー諸島におけるMSの流行」の話はご存じでしょうか。フェロー諸島はデンマークの自治領で、ノルウェーとアイスランドの間の北大西洋に位置しています。フェロー諸島にはもともとMS患者は1人もいませんでしたが、1943年に21人がMSを発症し、その後、10人、10人、13人と3回の流行が続きました (Kurtzke JF. J Clin Epidemiol 54(1):1-22, 2001)。フェロー諸島は第二次世界大戦中に5年間イギリス軍に占領されたことから、イギリス軍によって持ち込まれた病原体が発生源であると考えられました。

MSの原因としての『ウイルス感染説』は、かなり以前からありました。MSの治療薬としてインターフェロンβが使われるようになったのも、抗ウイルス作用を期待してMS患者の髄腔内にインターフェロンβを投与したのが始まりです。

今までに様々なウイルスがMSの原因として候補に挙がり、なかでもエプスタイン・バー (EB) ウイルスが原因である可能性が強く疑われていましたが、長年に渡ってそれを証明することができず、MSの原因は謎に包まれたままでした。しかし、いま、その謎の全貌が、ようやく解明されつつあるのです。

EBウイルスとは

EB ウイルスはヘルペスウイルスの一種で、成人するまでに約 95%の人が感染する、ごくありふれたウイルスです。しかし、その一方で、EBウイルスは様々ながんや疾患の原因にもなることが知られています。

EBウイルスは唾液を介して体内に侵入し、リンパ球の一種である『B細胞』に感染します。B細胞に感染したEBウイルスは、普段は気配を消してひっそりと細胞内に潜伏していますが、ときに再活性化して増殖し、唾液中にウイルスを放出します。

幼少期にEBウイルスに感染するとほとんどが無症状ですが、青年期に感染すると伝染性単核球症を発症し、発熱、扁桃炎、リンパ節腫脹、発疹や肝機能障害などを来たします。

MS患者にEBウイルス感染者が多いことは以前からわかっていました。カナダの小児MSの研究では、EBウイルス感染者は非MS患者で42%であったのに対して、MS患者では83%でした (Alotaibi S. JAMA 291(15):1875-1879, 2004)。

同様に、小児MSで行われた多国籍研究では、EBウイルス感染者は、非MS患者で64%であったのに対して、MS患者では86%でした (Banwell B. Lancet Neurol 6(9):773-81, 2007)。

また、別のグループは、3種類の検査方法で901人のMS患者を調べることで、その全員がEBウイルスに感染していることを確認しました (Abrahamyan S. J Neurol Neurosurg Psychiatry 91(7):681-686, 2020)。

EBウイルス感染とMS

しかし、あまりにもありふれたウイルスであるが故に、EBウイルス感染とMSとの関連を証明することは容易ではありませんでした。

この謎を解き明かしたのが、Levin LIらの米国海軍での研究です。彼らは海軍入隊後にMSを発症した現役軍人305人のうち、入隊時にEBウイルスに未感染であった10人について、EBウイルスに感染した時期を同定しました。すると、驚くべきことに、10人全員が、MSを発症する前にEBウイルスに感染していたことがわかったのです (Levin LI. Ann Neurol 67(6):824-30, 2010)。

そして、さらに長期に渡って米国海軍で行われた調査によって、EBウイルスに感染することによってMS発症のリスクが32倍も高くなることがわかりました (Bjornevik K, Science 375(6578):296-301, 2022)。

いまや、MSがEBウイルス感染によって引き起こされることは、疑う余地もありません。では、ごくありふれたEBウイルスが、なぜ、ほんの一握りの人だけにMSを発症させるのでしょうか。次回以降のブログで、その理由を明らかにしていきたいと思います。

なお、このブログの内容はあくまでも私見であり、MSキャビンの公式見解ではないことをご承知ください。
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